【9月25日 AFP】大韓航空(Korean Air)の客室サービス責任者だったパク・チャンジン(Park Chang-Jin)氏(49)は、一袋のマカダミアナッツがきっかけで政界入りするとは想像だにしていなかった。

 6年前、大韓航空の旅客機内で、同社会長の長女で副社長だった趙顕娥(チョ・ヒョナ、Cho Hyun-Ah)氏が機内サービスに激怒し離陸を遅らせた、いわゆる「ナッツ事件」。世界中で大々的に報じられたこの事件で、趙氏に激しく叱責され土下座させられたパク氏は、階級社会における「職場いじめ」の象徴的存在となった。

 2014年12月、米ニューヨークから韓国・ソウルへ向け離陸しようとしていた大韓航空機のファーストクラスで、趙氏は客室乗務員がマカダミアナッツを袋のまま提供したことに激高し、皿に入れて出すべきだと叫んだ。

「客室乗務員が、死んだような顔つきで私のところへ来て、趙氏がナッツをめぐって怒り狂っていると訴えてきた」とパク氏は当時を振り返った。

 趙氏は、この乗務員とパク氏に土下座して謝罪するよう命じ、激しく叱責した。パク氏は「気を静めてほしいと趙氏に懇願した」という。「だが、自分の人としての尊厳が崩壊していくのが感じ取れた。人生で最も長い5分間だった」

 趙氏は、パク氏を押しやって降機を要求し、滑走路へ移動中だった機体をターミナルに引き返させるよう命じた。この行為は後に航空保安法違反に当たるとして、趙氏に有罪判決が下されている。

「ターミナルに戻りながら、自分の棺おけに向かって歩いているような気持ちになった」。現在、韓国第3党の左派・正義党の党代表選に立候補しているパク氏はこう語った。

■「人間の本質」

 趙氏との一件は、「社会や人間の本質についての新たな視点」をパク氏にもたらしたという。「政治や法律を変えなければ、現状は決して変わらないのだと気付いた」

 事件後、パク氏は入社当時の地位に降格させられた。その後、裁判所はパク氏への損害賠償として1億ウォン(約900万円)を支払うよう趙氏と大韓航空に命じた。

 パク氏は今年1月、政治に専念するため大韓航空を退職した。客室乗務員時代に身に付けた清潔な身だしなみと礼儀正しさはそのままに、今週末行われる正義党の党代表選に挑む。

 韓国では、少数の「チェボル(財閥)」と呼ばれる家族経営の巨大複合企業が力を持っている。チェボルの創業者一族は少数株主だが、株の持ち合いを通じて財閥全体の支配力を維持しており、一族出身者はスピード出世する。調査会社によると、こうした家族経営企業では、それ以外の企業よりも職場でのいじめが多いという。(c)AFP/Kang Jin-kyu