■両腕を空に

 出発から2時間後、仏巡視船「テミス(Themis)」が、彼らのボートと並んだ。

 テミスは英仏の監視当局にボートの位置を送信するが、海上での介入は問題がない限りしない。危険が大きすぎるからだ。

 ワリドさんのボートは進み続けた。途中、エンジンが止まったが、無事に再始動した。国境は数キロ先だ。

 10時になった。遠くに赤い物体が見えた。灯台船だ。海上で灯台の役目を務め、また英国の海域の始まりを指し示す。

 ワリドさんは歓喜し、どっと疲れが出て、そして感情がこみ上げた。突然、携帯電話を取り出して海に投げ入れた。これまでの軌跡を全て消すためだ。一緒に乗っていた人々も両腕を空に伸ばし、大声を出した。

 7時間に及ぶ横断を終え、ボートに乗っていた人々はかすみがかかった空の下で英国に降り立った。同日、移民数十人が英仏海峡を渡った。海峡の向こう側では、ファラさんは動揺を隠しきれずにいた。その日、彼らのグループは横断を試みることをしなかったのだ。(c)AFP/Clement Melki, Sameer Al-Doumy, Thomas Bernardi with the London bureau