【10月3日 AFP】伊ベネチア(Venice)のカナル・グランデ(Grand Canal、大運河)に架かるリアルト橋(Rialto Bridge)のたもとにボートを止め、伝統工芸品の「ムラーノガラス」を作って見せるガラス職人のマッテオ・タッリャピエトラ(Matteo Tagliapietra)さん──。

 世界的に有名なムラーノガラスは、ベネチア市内にいくつもある土産店で売られている。しかし、販売されている製品の約70%はベネチアで生産されたものではないと広報協会のルチアーノ・ガンバロ(Luciano Gambaro)氏はAFPの取材で説明した。

 こうした事態を受け、市当局は「ベネチアガラス週間」を設けて、同国の最も有名な輸出品の一つであるムラーノガラスをしっかりと知ってもらおうと取り組みを進めている。4年連続での開催となった今年の特別週間では、さまざまなイベントを通じて「本物」が提供された。

 ムラーノガラスの歴史は、1291年にさかのぼる。ベネチア共和国時代、市内で火災が相次ぎ、ガラス職人らがムラーノ(Murano)島への移動を余儀なくされたことで誕生したのがこのムラーノガラスだ。

■スーパースター

 工房で作業をするタッリャピエトラさんは、白の靴下に黒色の短パン姿だった。細心の注意を払いながら吹きざおで花瓶を形作り、「数世紀前から作り方は変わらない。ラ・セレニッシマ(La Serenissima)の時代、ガラス職人はスーパースターだった」と手を動かしながら笑顔で語る。

 そして、最近は大量に作ることをやめ、特別注文を優先するようになったと説明し、「もともとのやり方に立ち返り、創造力をより重視するようになった。進化し、変わり、適応し続けなければならない。それがムラーノ(ガラス)の未来だ。誰かがやってきたことを維持するだけでは未来はない」と仕事との向き合い方についても語った。

 近年は、こうした考えの下でガラス職人らがムラーノ島の工房の外にも出向くようになり、顧客と積極的に触れ合うことを始めたという。

 先月開催された今年のベネチアガラス週間では、炉を載せたボートが市内の運河に登場し、人々が集まる場所で職人技が披露された。

■商標登録

 主にアジアから輸入される模造品に対抗するため、ベネチアは1994年、「ベトロ・アーティスティコ・ムラーノ(Vetro Artistico Murano)」の商標登録を行った。

 数ユーロで手に入る輸入のガラス製品とは違い、本物のムラーノガラスの中には数十万ユーロするものもある。

 広報協会のガンバロ氏は、ムラーノガラスには800年以上の歴史があり、各国の王室にも飾られていると説明した。(c)AFP/Gildas LE ROUX