■「恐怖の風潮」

 一方、FDAの信頼も損なわれているというのは、米スクリプス・トランスレーショナル研究所(Scripps Research Translational Institute)のエリック・トポル(Eric Topol)所長だ。同氏は医薬品規制機関として世界で最も影響力を持つFDAの信頼性が揺らいでおり、パンデミック(世界的な大流行)に関する最も重要な決定、つまり最初のコロナワクチンをいつ承認するかという決定に大きな影響を及ぼしかねないと警告する。

 トポル氏は重要な出来事があったとして、次の2つを挙げた。まず3月にFDAは、COVID-19への治療効果の証拠がないにもかかわらず、トランプ氏が熱心に推奨する抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンの緊急使用を承認した。だが安全性への懸念から、この承認は6月に取り消された。

 またトランプ氏が共和党全国大会へ向けて準備をしていた8月にはFDAは、COVID-19から回復した患者の血漿(けっしょう)を用いた治療を緊急許可した。その発表の際、FDAのスティーブン・ハーン(Stephen Hahn)長官は血漿が生命救助に大きな効果を持つことをデータで示したが、この引用は不正確で、ハーン氏は後に謝罪と撤回に追い込まれた。

 ハーン長官はFDAがホワイトハウス(White House)から圧力を受けているのではないかとの批判を否定し、審査プロセスには独立した専門家らが加わっていると強調している。さらに9月上旬にはツイッター(Twitter)への投稿で「これらの(新型コロナウイルスの)ワクチンやその他のワクチンに関し、われわれの科学に基づく独立した審査に対する国民の信頼を脅かすことはしない。危険すぎることだ」と述べた。

 現在、ワクチンの臨床試験は最終段階にあるが、トランプ氏がいう10月いっぱいまでに十分なデータが入手できる可能性は低い。また実用化のめどが十分に立っていない医薬品で、製薬企業が自社の評判を危うくすることもありそうにない。

 だが専門家らは今も懐疑的だ。彼らが懸念材料として挙げるのは、米医薬品大手ファイザー(Pfizer)の最高経営責任者(CEO)が早ければ数週間以内にも承認申請を行うと、連日のように発言していることだ。

 米ハーバード大学(Harvard University)の疫学者マイケル・ミナ(Michael Mina)氏は、「承認を迫る不穏な圧力運動が起きているのだと思う」と語った。

 スクリプス研究所のトポル氏は、CDCとFDAが「トランプ政権下のホワイトハウスの面々に従属してしまっている」と指摘し、「失職することに対する恐れや、大統領とその支持者らによる敵意あるツイートの標的になることを怖がる『恐怖の風潮』がある」と批判した。(c)AFP/Ivan Couronne and Issam Ahmed