【9月21日 AFP】豊かな流れによって古代メソポタミア文明を育んだチグリス川(Tigris River)とユーフラテス川(Euphrates River)が、上流で建設が進むダムの影響で干上がる恐れに直面している。下流に位置するイラクは、新たなダムを稼働させつつある隣国トルコとイランとの間で緊迫した協議を続ける一方、水利インフラ整備を急いでいる。

 イラクで最も深刻な影響を受けているのが、国内で唯一海に面した南部バスラ(Basra)県だ。チグリス・ユーフラテス両河川が合流してからペルシャ湾(Persian Gulf)にそそぐまでのシャット・アルアラブ(Shatt al-Arab)川は、数百万人のイラク人に農業用水を供給する源だが、流量はすでに激減し、海水の逆流が起きている。

 数千年前から川岸に栄えてきた人々の暮らしや野生動物の生息地は、じわじわと圧迫され失われつつある。

 かつてイラクの特産品として知られたナツメヤシを育てて数十年になる農家の男性(70)は、「ここ数年で(土壌の)塩分濃度が上がり、畑は死にかけている」と語った。真水は今やほとんど得られず、農地は塩害でひび割れて、大昔からこの地に生い茂ってきたナツメヤシの木々が立ち枯れている。

「この川はすっかり死んでしまった」。男性は農地を放棄し、仲間の農家と共に水を求めて北部へ移住するという。

 チグリス・ユーフラテス流域では砂漠化と人口増加が同時進行しており、トルコとイランは以前にも増して貴重な水源の確保に躍起になっている。イラクのメフディ・ハムダニ(Mehdi al-Hamdani)水資源相によると、トルコ・イラン両国が上流に新たなダムを建設し、支流を水源に利用し始めたことで、イラク国内のチグリス・ユーフラテス川の流量は半減した。

 とはいえ、ハムダニ氏はまだ希望を捨ててはいない。イラク政府も、首都バグダッド北方のマコール(Makhoul)に大規模な貯水池の建設を計画しており、完成すれば「より大量の水を確保して発電に利用したり、洪水からバグダッドを守ったりできるようになる」という。この貯水池計画は、2003年のサダム・フセイン(Saddam Hussein)政権崩壊以降で最大規模のインフラ事業となる。

 だが、専門家らは、新たなインフラ事業だけでイラクを流れるチグリス・ユーフラテス川を守ることはできないと警告する。持続可能な川の利用には、水の共有についてトルコ・イラン両政府と合意することが不可欠だというのだ。

 イラク南部にある農業の中心地ディワニヤ(Diwaniyah)の農協組合長は、イラク側には交渉材料があまりないのに「トルコはいつでも水戦争を仕掛けることが可能だ」と悲観的だ。2016~18年に起きたような干ばつに再び見舞われれば、5年以内にチグリス・ユーフラテス川は干上がって、野生動物は死に、飲料水にも困る日が来る恐れがあるという。

「唯一の解決策は、経済的圧力だ」とこの組合長は主張し、商品やサービスの輸入制限と引き換えに交渉できるかもしれないと語った。

 原油と水の交換取引を提案する声もある。ただ、世界では原油の使用量が減少しつつあり、イラクは早急に行動する必要がある。2035年にはトルコとイランのダムが完成する。そうしたら、命を育むチグリス・ユーフラテスの流れは、遠い記憶となってしまうかもしれない。(c)AFP/Haydar Indhar