【10月3日 AFP】アイルランドの首都ダブリンにある「死んだ動物園」では専門スタッフが集まって、ワイヤでつるした巨大パズルに挑戦している。1世紀以上にわたって空中につり下げられていたクジラ2頭の骨格標本を慎重に解体する作業だ。

 この自然史博物館は、広範にわたる生物標本を収蔵している。中には目を見張るような動物の剥製標本もある。

 作業に立ち会っていたナイジェル・モナガン(Nigel Monaghan)館長はAFPの取材に「クジラの骨格標本を解説書や手引書なしで解体する際、頼りになるのは動物の骨格に関する一般知識だ」と語った。「ジグソーパズルに取り組んでいるようなものだが、手元には見本になる写真がついた箱はない」

 この手狭な自然史博物館を、ダブリン市民は親しみを込めて「死んだ動物園」と呼んでいる。1856年にアイルランド国立博物館(National Museum of Ireland)の一部として開設されたが現在、1500万ユーロ(約19億円)をかけての改装が始まろうとしている。

 モナガン氏は厳しい表情で作業を見渡しながら「私たちはこの博物館を…死の大邸宅とみなしている」と語った。バルコニーは瓶詰めにされたヘビの標本や、レイヨウの頭やペンギンの剥製などでいっぱいだ。「だが大邸宅と膨大な歴史的遺産には問題がたくさんある」

■19世紀のクジラ

 問題は多岐にわたる。障害者用のエレベーターがない。目を引く収蔵物が並ぶバルコニーには非常口がない。それに断熱性が劣悪だ。

 だが老朽化したガラスと金属性の屋根に計画されている大規模工事の最大のハードルとなっているのは、この構造物がかけがえのない収蔵物2点をつり下げる役割を果たしていることだ。

 一つは全長20メートルのナガスクジラの骨格だ。ナガスクジラはシロナガスクジラに次いで地球で2番目に大きい種だ。1851年にアイルランドの南部海岸にえい航されて来た遺骸の骨格は、19世紀末からホールを見下ろしている。

 もう一つは1909年からすぐその下につり下げられている、少し小さいがそれでも見る人を圧倒する全長8メートルの若いザトウクジラだ。

 クジラの骨格標本の解体作業は専門的で大がかりな仕事だ。博物館にはオランダから2人の専門家がやって来て、現地スタッフと一緒に作業している。改装後に元の場所に置くために、すべての骨にラベルを付けて保管する。

 作業全体には3か月を要する。パズルにたとえるとすれば、完成に近づくほど難しくなるものだ。骨格の一部を取り外すと、重心が変化して骨組みが崩れ、耐えきれずに空中分解する恐れがある。

 作業チームがザトウクジラの左のひれを引っ張ると、その先は精巧な結び目で胴体につながっていた。それをクレーンに引っ掛けてゆっくりと下ろし、上方にいる作業員の腕から下のスタッフにそっと手渡す。

 一瞬、上下両方でコントロールを失った。空中にぶら下がったひれは右に引っ張られ、いつもは静かな博物館に声が響く。その後、再びコントロールは落ち着き、その部分はスポンジマットの上に無事下ろされた。

 安全ヘルメットをかぶった作業員が「最初の一つが終わった」と言った。その上には、これから下ろさなければならない1頭目のクジラの骨170個が待っている。(c)AFP/Joe STENSON