【9月20日 AFP】スーダンの農業従事者ハディージャ・アフマド(Khadija Ahmad)さん(45)は、タマネギの苗を植えている時に踏んだとげがサンダルを貫き、足に切り傷ができた。心配はいらないようにみえた。

 しかし、このとげは「マイセトーマ(菌腫)」いう、細菌や真菌による「人食い」感染症をもたらした。

 内戦で荒廃した西部ダルフール(Darfur)地方のエルファシェル(El Fasher)出身のアフマドさんが最初に気付いた異変は、足の腫れだった。

「初めは痛みもなく、ただのこぶだった」「そのうち治ると思っていた」という。

 マイセトーマは世界保健機関(WHO)が「顧みられない熱帯病(NTDs)」の一つに分類しており、スーダンではめずらしいものではない。

 首都ハルツームのマイセトーマ・リサーチセンター(MRC)で医師の診察を受けながらアフマドさんは、ここに「来るまで9年待った」「来た時には手遅れだった」といい、「切断せざるを得なかった」と義足を抱えながら語った。

 これからも彼女は一生、服薬を続けなければならない。

■ゆっくりと陰険に

 スーダンでは、この感染症に「沈黙の死」という別名がある。死に至る例はほとんどないが、マイセトーマは感染者の人生を破壊する。

 WHOによると、感染者の多くは田畑をはだしで歩く若い農業従事者だ。生活を肉体労働に頼る人にとって、手足に障害を残すこの感染症は終身刑の宣告に等しい。

 マイセトーマの原因は細菌あるいは真菌で、通常は傷口から体内に侵入する。体内組織を徐々に破壊する感染症で、皮膚や筋肉、骨にさえ影響を及ぼす。足の腫瘍が特徴とされることが多いが、フジツボのような腫瘍ができたり手がこん棒のようになったりする場合もある。感染のきっかけとなる傷口だけでなく、体のどの部位にも症状が表れる可能性がある。

 MRC創設者のアーメド・ハッサン・ファハル(Ahmad Hassan Faha)氏によると、「この感染症は、ゆっくりと陰険に、何年もかけて体内に広がる」という。「障害が残る例が非常に多い。感染した人のほぼ60%の手足が、最終的には変形する」

 マイセトーマの症例はスーダンで特に多いが、隣国エチオピアやチャドからインド、メキシコ、ベネズエラに至る40か国ほどの地理的な「ベルト」内でみられる。