【9月9日 AFP】「ショックで、まるで自分を奪われてしまったようで、もはや何もできなかった。私はテンキーの前へ行き、暗証番号を打ち込んだ」──2015年に仏風刺週刊紙シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)を襲撃した被告らの公判で8日、襲撃者に強制的にオフィスの鍵を開けさせられた漫画家が証言し、トラウマとなっている罪悪感を吐露した。

 裁判では、2015年1月7日から9日にかけて起きたシャルリー・エブド紙とユダヤ系スーパーへの襲撃事件をめぐり、14人が共謀罪などに問われている。一連の事件では計17人が犠牲となった。

「ココ(Coco)」のペンネームで知られるコリーヌ・レイ(Corinne Rey)さん(38)は2015年1月7日、ちょうどたばこを吸いに外へ出ていた。するとシェリフ・クアシ(Cherif Kouachi)容疑者とサイド・クアシ(Said Kouachi)容疑者の兄弟が近づいてきて、カラシニコフ銃を振りかざし、レイさんにオフィスに入る暗証番号を入力させた。

 レイさんはその時のことを振り返り、「テロリストたちがゴールに近づいていると感じた。私の真横で彼らが興奮していくのが分かった」と述べた。

■死の沈黙

 襲撃者らはオフィスに入るなり、同紙のウェブマスター、シモン・フィエスキ(Simon Fieschi)氏に向かって発砲した。レイさんはデスクの下に走って隠れた。

「銃声が続いた後、静寂に包まれた。死の沈黙だった…まだ殺していない全員を殺す気だと思った」。だが、オフィスで10人を殺した後、襲撃者らは立ち去った。

「カビューの足が見えた。ウォランスキは動かなかった。シャルブが見えたけれど…横顔は真っ青だった」

 カビューはジャン・カビュ(Jean Cabut)氏(当時76)、ウォランスキはジョルジュ・ウォランスキ(Georges Wolinski)氏(同80)、シャルブはステファヌ・シャルボニエ(Stephane Charbonnier)氏(同47)のことで、3人ともフランスで高く評価された風刺画家だった。そして全員、この事件で命を落とした。

 事件から5年がたった今も、レイさんは襲撃の記憶に苦しみ、無力感に加え、罪の意識にさえさいなまれているという。「私自身には罪はない、罪を犯したのはイスラム過激派のテロリストたちだけだと納得するのに長い時間がかかった」

■次は「自分の番」

 弁護士から転身し、同紙で司法記事を担当していたシゴレーヌ・バンソン(Sigolene Vinson)さんもその日、編集部にいた。バンソンさんも銃声の後の恐ろしい静寂を覚えている。

 静寂の後、壁に向かって隠れていた自分の方に近づいてくる足音が聞こえた。「私の姿を見て、殺人者が近寄ってきたと分かった。次は『自分の番だ』と思った」。だが、シェリフ・クアシ容疑者は、女は殺さないと言い殺さなかった。

 今月2日に開始された裁判は11月まで続く見通し。フランス史上、最も痛ましい悲劇の一章が再び始まる。(c)AFP/Anne-Sophie LASSERRE and Valentin BONTEMPS