【9月14日 AFP】米国でジョー・バイデン(Joe Biden)氏が大統領となれば、あなたは「安全ではない」というメッセージ。テレビ取材中、「寝ている」ように見える前副大統領バイデン氏。地下室に、独りで、「隠れている」バイデン氏。

 米大統領選に臨む現職ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏が、対立候補である民主党のバイデン氏との差を縮めようとしていた8月下旬、この3本の動画がトランプ氏本人とその陣営のソーシャルメディアを飾った。そして3本ともそろって、大手ソーシャルメディアや事実検証機関から、虚偽あるいは操作された改変コンテンツだと判定された。

 ライバル候補を非難するネガティブキャンペーン(中傷作戦)が米国政治の常とう手段となって久しいが、2020年米大統領選でトランプ氏ら候補者がデジタル加工した画像をあからさまに使用していることに、大手IT系企業は懸念を募らせている。

 ツイッター(Twitter)はトランプ氏の複数のツイートを削除、あるいは信ぴょう性に関するラベル付けを行うなどして厳しく扱っている。フェイスブック(Facebook)は今月に入り、11月3日に行われる大統領選の直前1週間は、新たな政治広告の掲載を許可しない方針を発表した。

 こうしたメッセージは、ひとたび拡散すれば制止することはほとんど不可能だが、有権者に影響を与えるのかどうかは疑問が残る。だが、すでに一線は越えてしまっている。

「政治の世界には、競い合う政治家同士が対抗する相手の言葉や信念を編集して語る伝統がある。それも政治の一部だ」とAFPに語るのは、メディアと広報の専門家である米ジョージ・ワシントン大学(George Washington University)のイーサン・ポーター(Ethan Porter)助教だ。

「だが一方で、トランプ陣営の選挙運動は一部、現実から完全に乖離(かいり)しており、こうしたことは米国の政治史にまったく前例がない」

 バイデン陣営の選挙運動は今のところ、トランプ陣営のような批判は受けていない。しかし、非常に目立つ政治広告や動画を操作しようという意欲は、実を結ぶのだろうか?

 米政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス(Real Clear Politics)」の世論調査による両候補の支持率は、共和党全国大会(RNC)の後もほとんど変わらず、全国平均でバイデン氏が7ポイント上回っている。だが、激戦州は五分五分のままだ。