【9月8日 AFP】1メートルか2メートル? それとも6メートル? 新型コロナウイルス対策のソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)に関して言えば、唯一の指針など存在しないと注意を促す研究論文が先ごろ、発表された。

 屋内か屋外か、空気の流れ方とその速度、人が小声で話しているか、大声を出しているか、くしゃみをしているか、空調が入っているか、窓が開いているか、ウイルスへの暴露の継続時間、マスク着用の有無──これらの要素すべてを考慮して、初めて十分な対人距離がどれほどになるのかを決めることができると論文には記された。

 英セント・トーマス病院(Saint Thomas Hospital)の研究者で、論文の筆頭執筆者であるニコラス・ジョーンズ(Nicholas Jones)氏は、「安全な距離を確保する際の柔軟性のないルールは、古い科学的知識と過去のウイルスの経験に基づいて簡素化され過ぎたものだ」と指摘する。

「今回の研究では、ある数値に固定された物理的距離のルールではなく、複数の要素を総合的にとらえてより正確なリスクを決める段階的な勧告を提案している」

■「安全な」ソーシャル・ディスタンシング

 何をもって「安全な」ソーシャル・ディスタンシングとするのか。これは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が始まった当初から専門家らの間で激しい議論が続けられてきた。

 世界保健機関(WHO)は「他者との間隔を1メートル以上確保する」と勧告しており、多くの国の保健機関も同様の指針を発表している。

 だが、ここ数か月間に実施された実験結果からは、WHOの指針ではまだ近過ぎて不安が残ることが示唆されている。少なくとも一部の状況においては、1メートルでは近過ぎるという。

 ジョーンズ氏と研究チームは、英医学誌ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)で発表した論文の中で、「最近の系統的レビューの対象とした10件の研究のうちの8件では、呼吸器飛沫(ひまつ)の水平方向への移動距離が、最大60ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の粒子の場合に2メートルを越えることが示されている」と指摘した。

 さらにそのうちの一件では、生きたウイルスが含まれている可能性が十分ある飛沫が、発生源から6メートル以上離れたところで検出されていた。これは、くしゃみやせき、大声での歌唱などの飛沫到達距離と一致する。