【9月4日 AFP】極めて高密度なため、光でさえその重力から逃れることができない宇宙の怪物ブラックホールに関する現時点での理解によれば、存在すらするはずがないブラックホールを発見したとする研究結果が2日、発表された。これまで検出された中で最古の重力波の観測に基づく結果だという。

 2つのブラックホールが合体して形成された重力波「GW190521」は、質量が太陽の約142倍で、観測史上初の「中間質量」ブラックホールだと、約1500人の科学者で構成される2つの国際研究グループが2本の論文で報告した。

 いわゆる恒星ブラックホールは、最期を迎えつつある恒星が崩壊する際に形成され、典型的な大きさは太陽質量の3~10倍とされる。一方、太陽の100~1000倍の質量を持つブラックホールはこれまで見つかっていなかった。

 論文を共同執筆した伊パドバ大学(University of Padova)の天体物理学者で、欧州を拠点とする重力波観測グループ「VIRGOコラボレーション(Virgo Collaboration)」のメンバーのミケーラ・マペッリ(Michaela Mapelli)氏は「今回の結果は、この質量範囲にあるブラックホールの初めての証拠だ」「ブラックホールのパラダイムシフトとなるだろう」と述べた。

 科学者チームが実際に観測したのは、70億年以上前に生成された重力波GW190521だ。この重力波は、それぞれ太陽の85倍と65倍の質量を持つ、2つのブラックホールの衝突が起きた際に発生した。

 この衝突によって放出されたエネルギーは、太陽質量の8倍に相当する。宇宙の起源とされる大爆発「ビッグバン(Big Bang)」以降の宇宙で起きた最も強力な現象の一つだ。

 GW190521は2019年5月21日、世界3か所に設置されている干渉計型重力波検出器で検出された。

 現在の知見に基づくと、恒星の重力崩壊では、太陽の60~120倍の質量範囲のブラックホールは形成できない。この大きさでは、重力崩壊に伴う超新星爆発によって恒星が完全に吹き飛ばされてしまうとされている。それにもかかわらず、GW190521を形成した2つのブラックホールは、どちらもこの範囲内にある。

 米国にあるレーザー干渉計重力波検出器(LIGO)による観測に参加する研究者らの組織「LIGO科学コラボレーション(LSC)」の天体物理学者キャラン・ジャニ(Karan Jani)氏は「今回の発見は、いまだ姿を見せていない広大な宇宙の存在を裏付けている」と話す。2015年9月に初めて重力波を検出したLIGOの科学者らは、2017年のノーベル物理学賞(Nobel Prize in Physics)を受賞している。

 ジャニ氏は「この理解しにくい規模の中間質量ブラックホールの理論的および観測的な解明は、これまでのところ非常に限られている」と述べ、「直径数百キロのブラックホールを見つける人間の能力は、今回の発見を実現させた最も特筆すべき要因の一つだ」と続けた。

 2本の論文は、米国物理学会(American Physical Society)の学会誌「フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)」と英学術誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ(Astrophysical Journal Letters)」にそれぞれ掲載された。(c)AFP/Marlowe HOOD