エンジン"ホット100"ランキング、選考委員が選んだ20年間の集大成! イタリアおよびフェラーリの最高位を獲得したのは〝458〞。最新モデルの〝488〞を抑えてホット5入りしたのは、多くの選考委員が、フェラーリV8最後の自然吸気エンジンに魅了されたからにほかならない。

308のデビューから45年。その間、フェラーリは9台のV8ミドシップを投入した。平均モデル・サイクルは6年を切る。GT-RやNSXの長寿ぶりを考えればものすごいペースである。1台のモデルを時間をかけて熟成していくと言えば聞こえはいいけれど、でもやっぱり開発にかける意気込みの差は如何ともしがたいなとも思う。現行モデルのウェイティング・リストが消えないうちに次の手を打ち、どんどん進化させていく。そんな積極的な商品展開がフェラーリのブランドイメージを高く保ち続けているのは間違いない。

2010年10月号ホット8で初登場。2011年9月号で最高位ホット2を獲得。

そんなV8フェラーリのなか、というより全フェラーリ・モデルのなかで最高位を獲得したのが458だった。なぜ新しい488ではなく(最新モデルのF8トリブートは今回候補外)、2009年にデビューした458だったのか。多くの選者が挙げたキーワードが自然吸気エンジンだ。燃費規制、そしておそらくはパワー競争という2つの理由から、高性能スポーツカーにもターボ化の波が押し寄せている。V12こそ自然吸気だが、フェラーリのV8はすべてターボ化されているし、ポルシェ911も同様。ランボルギーニはまだ踏ん張っているが、いずれターボ化されるのではないか。

パワーとトルクを嵩上げするのにターボは好都合だ。しかしオーバー500psの世界でさらにパワーを上乗せすることに果たして意味はあるのだろうか。そりゃ50ps と70psなら70psのほうがいいとは思うが、500psと700psだったら「どちらも速い! 以上」だと僕は思う。

スパイダーはV8ミドシップ・フェラーリ初の開閉式ハードトップを採用。
V8最後の自然吸気エンジンは直噴の4.5ℓ。出力はイタリアとスパイダーが570ps/540Nm、スペチアーレが605ps/540Nm。どちらも最高出力発生回転数が9000回転という高回転型ユニットだ。最高速度はイタリア、スペチアーレとも325㎞ /hだが、0-100㎞ /h加速はイタリアの3.4秒に対し、スペチアーレは3.0秒と、コンマ4秒速い。

これまでの20年を振り返りつつ、今後20年を占ったとき、問われているのはそこだ。「最後のV8自然吸気フェラーリ」(清水草一氏)、「カーンという音で放心する。もう神だ!」(荒井氏)、「フェラーリがつくったV8の最高峰」(国沢氏)、「狂喜のNAサウンド」(山田氏)、「市販車用エンジンのベストのひとつ」(齋藤浩之氏)といったコメントから伝わってくるのもまさにそこ。凄まじい加速ではなくサウンドに酔いしれたい、パワーよりもフィーリングで痺れさせて欲しいという価値観であり、それが458をフェラーリ最高位に押し上げた。

2018年に488ピスタの試乗でマラネロを訪れたとき、フェラーリのエンジニアが強調していたのが「自然吸気に迫るレスポンスをもったターボ・エンジン」というトピックだった。実際、488ピスタのV8ターボは素晴らしいレスポンスを誇る。サウンドもゴキゲンだ。しかしそこには「ターボ・エンジンとしては」というエクスキューズが付く。高周波成分が減って野太くなったターボ・サウンドを聴きながら、僕の脳裏に浮かんだのはクォォォーンと気高く吠える458のNAサウンドだった。

フェラーリといえども燃費をよくしなければならない、通過騒音規制にも適合しなくてはならない。しかも時代とともにその傾向はどんどん強まっていく。パワーではなくフィーリングで酔わせて欲しいという要望はもはや叶わぬ夢になってしまったのだろうか。否。客が果てしなきパワー競争に目を向けなくなれば、可能性は大いにあるはずだ。

■フェラーリ458(スパイダー、スペチアーレを含む)
全長×全幅×全高=4527×1937×1213㎜。ホイールベース=2650㎜。乾燥重量1380㎏(数値はすべて458イタリア)。2009年のフランクフルト・ショーでクーペの"イタリア"がデビュー。屋根開き仕様は高性能版のスペチアーレにも設定された。

文=岡崎五朗 写真=柏田芳敬(メイン、エンジン、リア)/小河原 認(インテリア)

(ENGINE2020年9・10月合併号)