【8月29日 AFP】ヒマラヤの王国ブータンで、長年禁止されていたたばこの販売が、新型コロナウイルスの流行対策として、異例にも解禁された。

 経済的利益よりも国民の幸福を重視する「国民総幸福量(GNH)」で知られるブータンは、1729年にたばこを取り締まる法が敷かれた。葉タバコは、女悪魔の血液で育つと考えられており、仏教徒が大半を占める同国では今も喫煙は罪とされている。

 1999年までテレビが違法とされていた、人口約75万人の同国は、たばこの製造と販売、流通を2010年に禁止。だが政府が重い関税や税金を課した上で一定量のたばこ製品の輸入を認めていたため、隣国インドから密輸された闇市場が繁盛している。

 そうした中、新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)を受けて、ブータンは今年に入ってインドとの国境を封鎖。すると取引業者のインドへの入国が困難になったため、たばこの闇価格は4倍にまで跳ね上がった。

 それでも一部は忍び込み続けていたものの、インドとの間を往来していたブータン人の行商人が8月12日、国境に近いプンツォリン(Phuentsholing)で新型ウイルス検査を受け、陽性反応を示した。

 これを受け、週末に医師の仕事を続けているロテ・ツェリン(Lotay Tshering)首相率いる政権は再考を迫られ、密輸入品への需要を減らすことで、理論上は国境をまたぐ感染リスクが抑えられるとして、長年禁止していたたばこの販売を解禁。同首相は一時的な措置だと強調している。

 この決定により、愛煙家は国営の免税店でたばこ製品を購入できるようになり、たばこが新型ウイルス対策のロックダウン(都市封鎖)中も購入可能な生活必需品に加えられた。

 政府はさらに、自宅待機中のヘビースモーカーからたばこを取り上げると、家庭内の緊張が高まる可能性があると主張。ツェリン首相は、「治療したり習慣を変えさせたりするには悪いタイミングだ」と、地元紙に語った。

 一方、首都ティンプーの免税店の店長は、1日に約1000本の電話が入ると話し、注文に応えるため朝8時から深夜まで働きづめだと説明。「必死に問い合わせる電話があまりに多くかかってくる。食事をする時間もない」と話した。

 新型コロナをめぐっては、インドでは300万人超の感染者が確認された一方、ブータンでは200人未満にとどまっている。(c)AFP