■細部への「とりつかれたような」こだわり

 マリネッラのネクタイはイングランドのマクルズフィールド(Macclesfield)で現在も手作業でプリントされる絹を使い、ナポリの店舗そばにある工房で仕立てられている。工房が抱える職人は20人ほどだ。

 ネクタイは絹の裁断から縫製、ループとラベル付けに至る計10の工程を経て、1本あたり45分ほどで仕立てられる。長さ、幅、厚みはカスタマイズすることができる。

 1日150本ほど生産しているが、新型コロナウイルス流行前は2倍か3倍の注文があった。

 だが、品質低下のおそれがあるので、生産を拡大することは考えていない。マリネッラのネクタイは「同じものが二つとない芸術品」であり、マウリッツィオさんは「とりつかれたように品質にこだわっている」という。

 ネクタイは1本130~215ユーロ(約1万6000~2万7000円)ほどで販売されている。ある顧客は10代の頃から頻繁に店を訪れ、今ではマリネッラのネクタイ数千本を所有しているという。

 マウリッツィオさんは日曜日も休まずほぼ毎朝6時半から店に立ち、「お客さまをお迎えして、手厚くおもてなしをし、コーヒーをお出しする」。ナポリならではの伝統だ。

 マリネッラの2019年の売り上げは1800万ユーロ(約23億円)。しかし店舗の一時閉店、観光業の停滞、多くの公式行事の中止などをもたらした新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、今年は「著しい」業績低下を覚悟しているという。

 4代目のアレッサンドロ・マリネッラ(Alessandro Marinella)さん(25)は言う。「幸い、ファッションは循環するものです。最近ではストリート系ファッションから、ネクタイが重要となるクラシックスタイルへの変化がやや見られます」

 アレッサンドロさんは「女性用を含み」、数年前に始まった「『トータルルック』の方向に」ブランドのかじを切りたいという。

 映像は6月撮影。(c)AFP/Celine CORNU