■困窮する市民

 富裕層と異なり、多くの国民の経済状況は悪化している。

 農民らは、需要が新型コロナウイルス以前の水準に戻らない上、都市部からの仕送りもなくなった。一方、都市部の中間層は未払いのローンと学費を抱え、財政危機に陥っている。

 チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)の政治アナリスト、ティティナン・ポンスティラック(Thitinan Pongsudhirak)氏は「人口の1%が、国富の実に3分の2を所有している」とし、このような不平等が政治危機をもたらすと指摘する。

 カシコン銀行(Kasikorn bank)は、家計の負債は国内総生産(GDP)の88~90%に到達すると予測している。政府予想では840万人が失業する可能性があり、うち4分の1をタイの重要な収入源である観光産業の従事者が占めるという。

 今年3月の世界銀行(World Bank)の報告書によると、タイでは新型コロナによるパンデミックの前から貧困層が拡大しており、2018年には670万人と2015年から200万人近く増加していた。

 タマサート大学ビジネススクール(Thammasat Business School)のパウィダー・パーナノン(Pavida Pananond)准教授は、パンデミックで経済が打撃を受けているが、中間層と労働階級は「十分に保護されていない」と指摘する。

■富裕層の「免疫力」

 一方、富裕層は経済悪化に対して「免疫」を持っている。バンコク中で、富裕層の経済レジリエンスを感じ取ることができる。

 不動産サービス大手CBREタイランド(CBRE Thailand)によれば、100万~500万ドル(約1億600万~5億3000万円)の住宅の売れ行きは好調で、高級ホテル「マンダリン・オリエンタル(Mandarin Oriental)」のコンドミニアムは1平方メートルあたり1万4200ドル(約150万円)という価格にもかかわらず、飛ぶように売れている

「ハイソ」(ハイソサエティー、上流階級の意)な生活を発信するインスタグラム(Instagram)のアカウントでは、ニューノーマル(新常態)になっても変わらずに、手つかずのビーチでのヨガやヨットパーティー、シャンパンでもてなされるイベントなどの写真が投稿されている。

 ファッション誌タトラー・タイランド(Tatler Thailand)のナパライ・アーリーソン(Naphalai Areesorn)編集長は、ハイソな人たちには「お金があり、いつでも使うことができる」と語った。(c)AFP/Aidan JONES