いま着けたいのは、“物語” のある時計--。その興味深いストーリーを知るほどに魅力は深まるばかり。ここに現代の名品たちを主役にした珠玉の短編集を編んでみた。

J12/昨年、ブラックとホワイトを同時にリニューアル。ベゼルはスリムに、リュウズは小さく改められ、ブレスレットのリンクも細く長く仕立て直された。さらに資本参加するケニッシ社製のオリジナル・ムーブメントを初搭載。約70時間駆動でCOSCも取得する高性能なCal.12.1は、円と半円とを組み合わせた自動巻きローターなど審美性も優れている。自動巻き。高耐性セラミック&SS、ケース直径38㎜、200m防水。税別各64万円。

ジャック・エリュが描いた、J12の最初期の構想スケッチ。ダイアルの色は実機と異なるが、数字や針、ベゼルなどのデザインはすでに完成している。この立体的な丸型ケースをセラミックで実現したのは、J12が初。

CHANEL

18歳でシャネルに入社し、40年以上アーティスティック ディレクターを務めた故ジャック・エリュによって「J12」は、2000年に生を受けた。彼がケース素材に選んだのは、ガブリエル・シャネルが愛した黒を永遠に留めるセラミック。そしてダイバーズやパイロットウォッチなどに古くからあるディテールを抽出し、精査して組み合わせ、スポーツウォッチとしてのピュアなスタイルを築き上げた。

「学生時代にJ12を見て衝撃を受け、私は時計デザイナーを志したのです」。そう語るアルノー・シャスタンにJ12のフルリニューアルが託されたのは、運命だといえるだろう。彼は、4年以上の歳月を掛け、エリュの意図を理解しようと努力した。そしてJ12を構成するディテールのすべてを抜き出し、一つひとつのサイズや色などを繰り返し微調整した。

そうして2019年に発表された新生J12は、多くの人を戸惑わせた。何故なら、何も変わっていないように見えたから。しかし実際には70%以上が、変更されている。シャスタン曰く「何も変えず、すべてを変 えた」。彼はスポーツウォッチのピュアなスタイルを変えることなく、ディテールの操作で一層のエレガンスを与えたのだ。美は細部に宿ることを、J12は教えてくれる。

文=髙木教雄
(ENGINE2020年9・10月合併号)