【8月18日 AFP】イエメン沖に放置され、腐食が進んでいる石油貯蔵施設の惨状が、今月に入ってレバノンの首都ベイルートや、インド洋の島国モーリシャスの沖合で相次いだ大惨事に比せられるほどの懸念を招いている。だが同国の反政府武装勢力フーシ派(Huthi)と国連(UN)双方の対応が、再び手詰まり感をみせている。

 イエメン西部ホデイダ(Hodeida)港付近に2015年から放置されている浮体式海洋石油貯蔵積出設備「セイファー(Safer)」は45年前に建造された。内部には110万バレルの原油が貯蔵されており、破損したり爆発したりすれば環境面および人道面で破滅的な結果を招く恐れがある。

 イランの支援を受け、イエメン北部の大半を掌握するフーシ派は、国連によるこの施設を調査するための視察団の派遣を阻止してきた。

 フーシ派は今年7月、ついに派遣に同意したものの、国連は最近、必要な許可が下りるめどが立っていないことを明らかにしている。

 アントニオ・グテレス(Antonio Guterres)国連事務総長の報道官は14日、「今月4日にベイルートで起きた悲劇的な爆発事故や最近のモーリシャスでの憂慮すべき燃料流出事故は、生命や生計への回避可能な損失を防ぐため、警戒と迅速な行動を世界全体に促している」と述べた。

 国連安全保障理事会(UN Security Council)は先月、特別会合を開き、施設の原油が紅海(Red Sea)に流出すれば「大惨事」になると懸念を表明。

 湾岸地域の焼け付くような暑さの下、メンテナンスもなく海面に浮かぶ貯蔵施設の状態は、ベイルートの港湾地区で数年もの間放置され、時限爆弾のように爆発した危険物質の貨物と同じように「日々劣化」しているという。

 浮体式貯蔵施設として使用されているタンカーには、約4000万ドル(約43億円)相当の原油が積まれている。

 長い内戦によって貧困と混乱にあえぐイエメンでは、経済や人道支援などの問題と同様、この施設の惨状がフーシ派側の交渉の切り札に使われてしまっており、フーシ派は価値ある積み荷への支配を確保するために、この災害の脅威を利用しているとして非難されている。

 国際社会から承認を受けていないフーシ派政権の外相は15日、議論の焦点は今、タンカーの修繕のプロセスに当たっていると述べ、国連視察団による1度の訪問でタンカーのアセスメントと修理を行うよう主張していると明らかにした。

 この外相はAFPに対し、「われわれは、調査と作業が早期に開始されるよう望んでいる」「一部の国連チームは時間をかけ過ぎるが、われわれはそれを望んでいない」と話した。

 国際的な承認を得ているイエメン暫定政府を身びいきしているとして国連を非難するフーシ派はまた、スウェーデンあるいはドイツといった第三国がプロセスを監督するよう要求している。

 だが、国連は14日、まずは問題を把握し早期に修理を行う必要があり、その上で他にどのような作業が必要で、どのような設備やリソースが必要かを判断するとし、「持続可能な解決法を立案・実行するには、独立した専門家らによる損害のアセスメントなしでは不可能だ」と述べた。

 また「タンカーで活動するためには、専門家らに必要なビザや許可証が与えられない場合、アセスメントを完了することは不可能」だとしている。

 国連によれば、石油が流出した場合、紅海の生態系に壊滅的な打撃を与えかねないとし、漁業は中断を余儀なくされ、イエメンの生命線であるホデイダの港が6か月間も閉鎖される事態となり得るという。

 その結果、国民の大半がすでに支援物資に頼っている同国で、食料や燃料費の急騰につながる可能性がある。

 さらに、もし火災が発生すれば、840万人が有害な水準の汚染にさらされ、ジブチやエリトリア、サウジアラビアを含む紅海の沿岸諸国が被害を受け、損害額は25年間で合計で15億ドル(約1600億円)に上る可能性があると、国連は警鐘を鳴らしている。(c)AFP