■インドという巨大市場を失った次はトランプ大統領の標的に

 だがティックトックは今年になって、中国の対外関係が悪化したあおりを受け、快進撃に水を差された。

 インド政府は、国内北東部の国境地帯で同国軍と中国軍の間で死者を出す衝突が起きた後にティックトックの使用を禁止。バイトダンスはインドという巨大な市場を失った。さらに、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ、Huawei)と同じく、中国の情報機関にユーザー情報の共有を強要されている可能性があるとの懸念から、厳しい視線を注がれるようにもなった。

 バイトダンスは、中国政府にユーザー情報を提供したことは一切なく、たとえ依頼されても提供はしないと主張。だがドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は今月、ティックトックの米運営会社を6週間以内に米企業に売却しない限り、ティックトックの運営を停止すると発表した。

 こうした事態が他国でのティックトック事業にどのような影響を及ぼすのかは不明だ。だが米政府は、他国に強要してファーウェイと第5世代(5G)移動通信網を拒絶させることにおおむね成功している。

 張氏はたとえティックトックの売却に合意して巨額の富を手に入れたとしても、中国での批判は必至だ。国内の一部のナショナリストからは、もし張氏が売却に応じるなら、バイトダンスをボイコットしようとの呼び掛けが始まっている。

 米ペンシルベニア州にあるバックネル大学(Bucknell University)国際関係学部長のジクン・シュ(Zhiqun Zhu)教授は、「バイトダンスにとって難題なのは、その成長が米中の緊張激化と一致していることだ」と指摘する。「米中の技術競争の犠牲者になっている」

 米マイクロソフト(Microsoft)が、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドにおけるティックトック事業の買収候補として浮上しているが、見通しはまだ立たない。

 いずれにせよ、ティックトックの運営企業はおとなしく引き下がるつもりはない。先週、「グローバル企業化」を改めて打ち出し、米国以外に本社を移転する計画を発表したばかりだ。(c)AFP/Beiyi SEOW