■悪夢

 ホセ・オヘダ(Jose Ojeda)さんは、「希望の声」だった。8月22日、掘削ドリルに付けたメモを介して、労働者らが生きていることを地上に初めて伝えたのは彼のメッセージだった。

 現在57歳になるオヘダさんは糖尿病が進行し、松葉づえの助けを借りないと歩けない。今も「悪夢を見たり、不眠がちだったりする」という。

 オヘダさんはアタカマ州の州都コピアポ(Copiapo)で妻と娘1人と、月約320ドル(約3万4000円)の年金で暮らしている。だが、医療が大幅に民営化され、労働者階級の多くに届かないチリで治療費を払うには足りない。「みんな、私たちが大金をもらったと思ったようだが、そんなことはない」

 8年間の法廷闘争の後、チリ政府は鉱山労働者1人当たり11万ドル(約1170万円)を支払うよう命じられ、サンエステバン鉱山会社(San Esteban Mining Company)に責任はないと判断された。しかし政府は、33人のうち14人は年齢や健康を理由にすでにさまざまな財源から終身年金を受けていると主張して控訴した。この裁判はいまだ決着がついていない。

■トラウマ

 高校を中退し、19歳で働き始めたジミー・サンチェス(Jimmy Sanchez)さん(29)は最年少だった。「まるで昨日のことのようだ。忘れられないと思う」。事故以降、鉱山用のヘルメットは二度とかぶっていないが、仕事を見つけるのにずっと苦労している。「職探しに行っても、僕が誰か分かると、目の前のドアが閉ざされてしまう。(坑道に)閉じ込められたのは、僕のせいではないのに」と嘆く。

 生還した鉱山労働者らを支援してきた心理学者のアルベルト・イトゥラ(Alberto Iturra)氏によると、33人については、雇用者側が再び鉱山の仕事をさせたがらないのだという。鉱山会社の上役らは、彼らが「急に休暇を願い出たり仕事をやめたりして、ストレスに対処できないと考えている」という。

 サンチェスさんは精神衛生上の理由から、仕事の再開は難しいと宣告された。収入は年金に頼り、妻と2人の子どもを連れて、20人が一緒に住む家に暮らしている。