■「情報と意見の自由な交換」を制限

 だが多くの人は、以前は意見を言う機会がなかった人が、不快な言動を非難することができるようになった初めての機会だととらえている。

「キャンセル・カルチャー」は、多くのハリウッド(Hollywood)の大物が、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)や性的虐待の告発を受けても罪に問われないことに対する激しい怒りが、世界的な告発活動へと広がっていった「#MeToo(私も)」の一環で、知られるようになった。

 現在、キャンセル・カルチャーは、日常的に起こる差別的な行動に影響を与えていると、研究者らは指摘する。

 米ミシガン大学(University of Michigan)のリサ・ナカムラ(Lisa Nakamura)教授は、ニューヨークのセントラルパーク(Central Park)で今年5月、黒人男性から犬を首輪なしで散歩させていたことを注意されたため「命を脅かされている」と、警察に虚偽の通報をした白人女性エイミー・クーパー(Amy Cooper)氏を例に挙げた。クーパー氏の行動を撮影した動画はオンライン上で拡散。クーパー氏の勤務先は市民の怒りを収めるため、同氏を即時解雇した。

 ハーパーズ・マガジンの公開書簡に署名した人たちは、「キャンセル・カルチャー」の過激化は「情報と意見の自由な交換」を制限すると警告している。

 スタンフォード大学のフォード教授は、ソーシャルメディアは「激しい怒りをあらわにし、挑発するよう促すものであり、ニュアンスを伝えることはほぼ不可能だ」と指摘する。「誰かをやりこめることで、感情的な満足を得ることが目的になっていることが多い」

 米ミシガン州立大学(Michigan State University)でメディア情報学を教えるキース・ハンプトン(Keith Hampton)教授は「実際には、罪悪感と社会的な辱めによって、意見が変わるものではない」とし、こうした動きの一部は米国社会の二極化を促進するだろうと付け加えた。

 一方フォード教授は、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領が評判を落としたいと望む個人と団体を攻撃することで、「キャンセル・カルチャー」を扇動していると指摘。例として、「黒人の命は大切(Black Lives Matter)」運動を挙げた。

「トランプ氏の不寛容さと偏狭さが右派支持者らを刺激し、同じように行動するよう促している。それが、進歩主義者らの反発を招いている」とフォード教授は述べた。

「イデオロギー上の敵と同じように独善的で頑固であることが正当化され、時にはそれが必要とさえされる『私たち対彼ら』といった態度が著しくなっている」 (c)AFP/Thomas URBAIN