【7月29日 AFP】(写真追加)オランダの画家ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)が、最後の作品「木の根と幹(Tree Roots)」を描いた場所が特定された。研究者が28日、詳細を明らかにした。

 苦悩に満ちた画家ゴッホが、鮮やかな色で木の幹と根、切り株を描いたのは、フランス・パリ北郊のオーベルシュルオワーズ(Auvers-sur-Oise)にある土手だったことが今回、断定された。この作品が描かれた1890年7月のある暑い日、ゴッホは銃で自殺を図り、村の宿によろめきながら戻ったと言われている。

 生涯最後の70日間を過ごした宿「オーベルジュ・ラブー(Auberge Ravoux)」でゴッホの部屋を管理するファン・ゴッホ研究所のバウター・バンデアベーン(Wouter van der Veen)氏によると、作品に描かれている根の大半は、その宿からすぐの場所にまだあるという。

 今回の発見について、オランダのアムステルダムにあるファン・ゴッホ美術館(Van Gogh Museum)の専門家らも「一つの解釈ではあるが、事実であるように思われる」と支持する考えを示している。

 バンデアベーン氏はAFPの取材で、20世紀初頭の古い絵はがきが発見のヒントになったことを明らかにした。この絵はがきには、パリ北方30キロに位置するオーベルシュルオワーズの主要道路沿いにある土手の樹木の写真が使われていたという。

 ファン・ゴッホ美術館のタイオ・メーデントルプ(Teio Meedendorp)氏は、「ゴッホは人生最後の1週間に制作していたオーベルの城の裏の畑に行くために」この場所をよく通っていたと考えられると話す。

 同氏はまた、今回の発見によって、論争となっている「ある説」が誤りであることも証明されるとしている。その説とは、ゴッホが自殺したのではなく、泥酔した際に地元の若者らと言い争いとなり誤って銃で撃たれたと主張するものだ。

 この説は、ピュリツァー賞(Pulitzer Prize)作家であるスティーブン・ネイファー(Steven Naifeh)とグレゴリー・ホワイト・スミス(Gregory White Smith)の両氏が9年前に書いたゴッホの伝記で初めて登場した。この伝記はその後、ウィレム・デフォー(Willem Dafoe)氏がゴッホを演じた2018年の映画『永遠の門 ゴッホの見た未来(At Eternity's Gate)』で映像化された。

■「お粗末な」殺人説

 バンデアベーン氏は「この最後の作品こそがゴッホの遺書であり、別れの手紙…自殺という選択肢は、ゴッホの中に1年ほどあった」と述べ、これらの「お粗末な殺人説」をはねつける。

 ゴッホは、死去するわずか3か月前にアルル(Arles)近くの精神科の病院から退院したばかりだった。

「(作品中の)根っこの絡み合いは人生の苦闘の象徴だ。木を切ると、その株からは新たな芽が現れる」と指摘するバンデアベーン氏は、「これで納得がいく。生と死がテーマなのだ。彼(ゴッホ)を考える上で、役にも立たないお粗末な説は一切消えてなくなるだろう」と続けた。(c)AFP