【7月24日 AFP】報道の自由のとりでとしての香港の地位が、危機にある。香港国家安全維持法(国安法)の下、当局は外国メディアに対する締め付けを強化、香港で活動する報道機関の自己検閲についての恐れも高まっている。

 中国共産党が世論をしっかり握る独裁的な中国の周縁に位置するかつての英国植民地は何十年もの間、アジアの報道記者にとって輝く光だった。香港の成功を後押しした市民の自由は、1997年の中国への返還時、向こう50年間保証された。

「(国安法の施行は)ボディーブローだ。香港が享受していた報道の自由の終わりだ」。かつて香港で記者として働き、現在は英ロンドン大学シティ校(City, University of London)で教えるユン・チャン(Yuen Chan)氏はAFPに語った。

 香港に支局を有する多数の外国メディアの中には米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、CNN、ブルームバーグ(Bloomberg)、米ニュース専門局CNBC、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)、AFPなどがあり、その多くが香港を地域拠点としている。

 独裁的な中国本土にまん延するハラスメントや検閲、制約から解放された半自治領の香港は、地元と外国の記者にとって安全な避難場所として繁栄してきた。

 しかし先月末に中国が厳格な国安法を施行してから、目まぐるしい変化の兆しがあらわれはじめた。

 ニューヨーク・タイムズは14日、査証の取得にあたり前例がないほどの困難に直面したため、スタッフの3分の1を韓国の首都ソウルに異動させると発表した。

 香港当局はこのほど、公共放送RTHKが民主主義推進派の抗議活動に同情的すぎるという非難を受け、RTHKの見直しを開始した。

 国安法の可決直後、民主主義の拡大を擁護する香港の反体制紙「蘋果日報(アップル・デーリー、Apple Daily)」のコラムニスト2人が退職している。

 中国は香港の地元・外国の両メディアを統制したいという欲望をほとんど隠していない。国安法の規定の一つは、当局に外国報道機関の「管理強化」を指示している。

「当局は少なくとも、好ましくない人物を処罰する手段として査証を使用することを検討し始めたようだ」と米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)の元特派員で、現在は香港大学(University of Hong Kong)の報道メディア研究センター(Journalism and Media Studies Centre)で代表を務めるキース・リッチバーグ(Keith Richburg)氏は述べる。

 国安法は香港の警察と中国の情報機関に、全面的な監視権限も認めている。香港大学でジャーナリズムを教えるシャロン・ファスト(Sharron Fast)氏はこれにより、報道記者が情報源を保護することが難しくなる可能性があると指摘する。「通信傍受とオンラインでの監視が原則的に解禁された」

 国安法の大部分が広義に記述されており、政府に対する反感をあおったり、独立を支持したりといった特定の言論は犯罪と規定される。記者らは他者の発言を報道することで、越えてはならない一線をうっかり越えてしまうことを恐れている。