【7月31日 AFP】「黒人の命は大切(Black Lives Matter)」運動が社会を再形成しつつある今日でも、イエメンの黒人にとって、何世紀にも及ぶ差別が終わることへの希望はほとんどない。差別は内戦中、むしろ悪化した。

 米国で5月、黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)さんが白人警官に拘束された際に死亡したことをきっかけに、抗議運動は世界各地に広がった。だが、イエメンの首都サヌアで暮らすハイサム・ハッサン(Haitham Hassan)さんの生活に変化はない。

 サヌアのスラム街では、「ムハマシーン(主流から追いやられた人々の意)」と呼ばれるマイノリティー(少数者集団)が、密集してひどい暮らしを送っている。ムハマシーンは、イエメンの最貧民層にあたる。

 サヌア南部の貧民街では、狭い通りに間に合わせのテントや段ボールでできた家が並ぶ。簡素なレンガ造りの建物はごくわずかだ。ごみをかき集め燃料にし、外で調理をする女性の姿も見られる。

 ハッサンさんはAFPに対し「イエメンの身分証明書を持っていても、私たちはイエメン社会の一員ではないかのようだ」と語った。

 イエメンにおけるムハマシーンの割合は、複数の推計より人口の2~10%を占める。ムハマシーンの職種は、街路清掃やごみ収集といった低収入のものに限定され、長らく苦境に立たされてきた。部族社会構造の外での生活が、彼らの脆弱(ぜいじゃく)性に拍車を掛けている。

 社会全体に飢餓と絶望をもたらした内戦は、あらゆる改革への勢いを鈍らせた。「黒人の命は大切」運動は、全くと言っていいほど影響力を持たなかった。

 ヌアマン・フダイフィ(Nuaman al-Hudhaifi)さんは「イエメンが安定した国だったら、私たちもこの歴史的な瞬間に抗議する世界的な運動に参加できただろう。内戦が私たちの動きを阻んだ」と語った。

「残念ながら、イエメンの状況は変わらない。差別が植え付けられ、部族や地域、宗教に基づいた複雑な社会的・部族的な構造があるからだ」 (c)AFP/Shatha Yaish