【7月22日 AFP】ウクライナで21日、武装した男がバスを襲って13人を人質に立てこもり、同国のウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領に、ソーシャルメディアで反体制的なメッセージを流すよう要求した。男と電話で話したゼレンスキー大統領は要求の一つに応じ、過酷な扱いを受ける動物のドキュメンタリー映画の視聴を勧めるメッセージをSNSに投稿。12時間以上にわたって拘束されていた人質は解放され、男は逮捕された。

 事件が発生したのは首都キエフから約400キロ離れたウクライナ西部の都市ルツク(Lutsk)。21日午前9時(日本時間同日午後3時)ごろ、バスに乗っていた乗客ら13人を人質に男が立てこもり、要求に応じなければ爆発物を爆発させると脅迫した。

 当局は男をさまざまな罪で計約10年を刑務所で過ごしたマクシム・クリボッシュ(Maksym Kryvosh)容疑者(44)と特定。後に凍結された容疑者のツイッター(Twitter)のアカウントには爆弾などで武装していることが記され、大統領ら政府高官にソーシャルメディアで反体制的なメッセージを発信するよう要求していた。

 だが緊迫した状況は、容疑者とゼレンスキー大統領が電話で話した後に急展開で解決。両者の電話での接触後、すぐに人質3人が解放され、残る人質も約1時間後に解放された。

 ルツクで記者会見したキリーロ・ティモシェンコ(Kyrylo Tymoshenko)大統領府副長官は、ゼレンスキー大統領が容疑者と電話で約15分間話し、最初の3人を解放するよう説得したと述べた。

 ゼレンスキー大統領はフェイスブック(Facebook)の公式アカウントに2005年のドキュメンタリー映画『アースリングス(Earthlings)』の視聴を勧める動画を投稿したが、これは要求の一つに応じたものと思われる。後にこの投稿は削除された。

 米俳優ホアキン・フェニックス(Joaquin Phoenix)さんがナレーションを務めるこのドキュメンタリー映画は、人間によって過酷な扱いを受ける動物たちの窮状を記録している。

 アルセン・アバコフ(Arsen Avakov)内相によると、その後の交渉の末、クリボッシュ容疑者はバスから出て投降した。容疑者は「実際に殺傷力のある拳銃、自動小銃、手投げ弾を持っていた」という。バスには食料もトイレもなく、人質らが飲料水を与えられたのもだいぶ時間がたってからだった。

 ウクライナ当局が公表した映像には、バスの近くで特殊部隊が後ろ手にした男を地面に押さえつける一方で、警官らが残りの人質を誘導する様子が捉えられていた。ウクライナ国家保安庁(SBU)は事件を「テロ行為」として捜査している。

 2014年以降、ロシアを後ろ盾とする分離独立派との紛争が続くウクライナは、武器の不法所持がまん延している。(c)AFP/Andriy PERUN with Olga SHYLENKO in Kiev