【7月21日 AFP】ルネサンス期のイタリアの芸術家ラファエロ(Raphael)は、「新型コロナウイルス感染症のような病気」にかかって発熱していたにもかかわらず、いてつくような寒さの夜に恋人たちの元をひそかに訪れていたことを医師に隠し、不適切な治療を受けて亡くなったとする新たな研究結果が発表された。

 多作の画家で建築家でもあったラファエロは多くの女性と関係を持っていたとされ、通説では1520年に梅毒で亡くなったとされてきた。だが、専門家らの意見は、感染症で亡くなったという点で広く一致している。

 論文の著者の一人で、伊ミラノ・ビコッカ大学(University of Milano Bicocca)の医学史家ミケーレ・アウグスト・リーバ(Michele Augusto Riva)氏はAFPの取材に対し、ラファエロは高熱で倒れ、ローマ教皇が手配した「ローマ有数の名医ら」の治療を受けたと語った。

 だが、1550年にイタリア人画家ジョルジョ・バザーリ(Giorgio Vasari)が発表した中世の芸術家たちの評伝によると、ラファエロは「寒い中、夜な夜な外出しては」恋人たちの元を訪れていたことを医師らに黙っていたという。「当時の3月は今よりもずっと寒かったから、肺炎にかかった可能性が高い」とリーバ氏は指摘する。

 医師らは、熱の原因は「体液」の中でも血液が過剰なためと診断し、体から血を抜く瀉血(しゃけつ)療法を施したため、ラファエロは致命的に弱ってしまった。子どもの頃から神童ともてはやされ、ミケランジェロ(Michelangelo)、レオナルド・ダビンチ(Leonardo da Vinci)と並び、ルネサンスの三大巨匠とされるラファエロは、37歳の若さでこの世を去った。

「当時、感染症の治療として瀉血療法が危険なことを医師らは認識していた。だが、誤った情報で判断してしまった」「医療ミスと、ラファエロ自身が自分の行動について正直に語らなかったという誤りが、死の一因となった」とリーバ氏。

「私たちが知る限り、ラファエロは今の私たちが目にしている新型コロナウイルス感染症と非常に似た肺疾患で亡くなったと言える」と続けた。

 ラファエロの当時の記録によると、ラファエロの病気は「15日間にわたって続いた。ラファエロは、身辺整理をして聖職者に罪を告白し、臨終の秘跡を受けるほど冷静だった」として、論文は、ラファエロの病気は急性疾患で、高熱が続くのが特徴だと指摘。

 しかし、淋菌(りんきん)感染症や梅毒といった性感染症では、感染してから発病するまでの潜伏期間が合わないと考えられ、「ウイルス性肝炎による急性症状なら、まず黄疸(おうだん)や肝不全などの症状があったはずだ。チフスやペストなどの伝染病は、当時のローマでは報告されていない」と付け加えている。

 論文は、医学誌インターナル・アンド・エマージェンシー・メディシン(Internal and Emergency Medicine)に掲載された。(c)AFP/Ella IDE