【8月22日 AFP】ウクライナの代理母の元に生まれた男の赤ちゃんを抱き上げると、40代後半のアルゼンチン女性アンドレア・ビエス(Andrea Viez)さんの頬を喜びの涙が伝った。子どもを持とうと9年間試みたビエスさんは、成長著しいウクライナの代理出産業のおかげで、ようやく自分の息子を腕に抱くことができたのだ。

 ウクライナの代理出産業界は、ビエスさんのように子どもを望む何千もの人々に希望を与えてきた。だが、大勢の夢がかなった裏には、困窮した若い女性を利用し、虐待の温床となるグレーゾーンで操業する収益性の高い不透明なビジネスが存在する。

 同国で子どもの人権委員を務めるミコラ・クレバ(Mykola Kuleba)氏は5月、「ウクライナは国際的な赤ちゃんオンラインストアになりつつある」と警告。ウクライナの女性に対する「搾取」を非難し、代理出産の禁止を求めた。

 ウクライナが外国人向けの商業的な代理出産を認める数少ない国であることは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)によって注目された。パンデミックで飛行機による移動が制限されたため、外国人の親たちが子どもを引き取ることができなくなり、赤ちゃんたちが足止めされてしまったのだった。

 ウクライナの代理出産業界は2000年代初頭から存在していたが、インドとタイが約5年前に外国人向けの商業的な代理出産を禁止してから、需要が爆発的に増加した。

 旧ソビエト連邦の構成国だった欧州貧困国の一つウクライナは、代理母による出産費用が約4万2000ドル(約440万円)と魅力的なことで知られている。米国では倍以上の費用が掛かる。

 公式統計は存在しないものの、専門家によるとウクライナでは毎年2500~3000人の外国人の赤ちゃんが、代理出産で生まれている。顧客の約3割が中国人だ。

 生殖問題を専門に扱う法律事務所を運営するセルゲイ・アントノフ(Sergiy Antonov)氏は、代理出産業界は規制が不十分で虐待や汚職がはびこっていると指摘する。

 約束された金額が支払われなかったり、妊娠後期に劣悪な環境の住宅に住まわされたりすることがしばしばある。また、代理母によって生まれた赤ちゃんが、外国人の親とは生物学的なつながりがないことが発覚したこともあるという。当局はまた、一部の診療所が代理出産を商業的な養子縁組の隠れみのに利用していると疑っている。