【7月17日 AFP】英スパイ小説「007」シリーズの主人公ジェームズ・ボンド(James Bond)の自宅の住所を突き止めたとするエッセーを、英作家・脚本家のウィリアム・ボイド(William Boyd)氏が16日、英紙タイムズ(Times)の文芸書評専門紙「タイムズ文芸付録(Times Literary Supplement)」に発表した。

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 ボンドの生みの親である英作家イアン・フレミング(Ian Fleming)は、1950〜60年代に短編集2作を含む14作の「007」シリーズを執筆した。しかし、ボンドの自宅の場所については、ロンドンのチェルシー(Chelsea)地区にあるとのみ記され、正確な住所は不明だった。

 2013年に「007」シリーズの新作小説「ソロ(Solo)」を出版したボイド氏は、執筆に当たって全14作品を再読。ボンドさながらの推理力を駆使して、「ジェームズ・ボンドのアパートがあった場所」はチェルシーのウェリントンスクエア(Wellington Square)25番地だと結論づけた。

 ボイド氏はまず、1955年刊行の「007/ムーンレイカー(Moonraker)」を調べた。同作では、ボンドの自宅について「キングスロード(King's Road)から一筋折れた、スズカケノキの植わった広場にある快適なアパート」と描写されている。キングスロードはチェルシーを代表する通りだ。

 次に、1961年刊行の「007/サンダーボール作戦(Thunderball)」を確認すると、ボンドの自宅アパートからはハイドパーク(Hyde Park)まで車ですぐだと書かれていた。こうした情報から、ボイド氏は有力な候補地としてウェリントンスクエアに注目した。

 さらに、ロンドン在住時のフレミングの交友関係を調査した。

 英海軍情報部に所属していた経験を生かして「007」シリーズを執筆したフレミングは、ほとんどの作品をカリブ海(Caribbean Sea)の島国ジャマイカで書き上げたが、英国を離れる前は英高級日曜紙サンデー・タイムズ(Sunday Times)の外信部長も務めていた。そのときの同僚が、ウェリントンスクエア25番地にアパートを所有していたことをボイド氏は発見した。

 この同僚夫妻は「エンターテイナーとして有名で、自宅は一種のサロンと化していた」とボイド氏。「フレミングもこの同僚宅で開かれるパーティーに出席していたと思われる」と述べている。

 決め手となったのは、1957年刊行の「007/ロシアから愛をこめて(From Russia, with Love)」の中に登場する「長く大きな窓のある居間」というボンドの自宅の描写が、同僚宅のアパートの間取りと合致したことだった。

 なお、ボイド氏は思いがけない偶然の産物として、ボンドの自宅の近所にはもう一人、有名なスパイが住んでいたことも発見したと記している。それは英作家ジョン・ル・カレ(John Le Carre)の作品に登場するジョージ・スマイリー(George Smiley)で、その自宅のあるバイウオーターストリート(Bywater Street)とウェリントンスクエアは目と鼻の先だった。(c)AFP/Joe JACKSON