【7月16日 AFP】今年5月、ロシアの首都モスクワ南東部にある元警察官ウラジーミル・ボロンツォフ(Vladimir Vorontsov)氏(35)の自宅に踏み込んだ警察部隊は、ドアをノックすることすらしなかった。

 二つの特殊部隊は朝7時ごろ、高層住宅最上階のボロンツォフ氏の部屋を急襲。一方が高層ビルを垂直に下降、他方がドアを破壊し、同氏を逮捕した。

「娘は悪党が侵入し、父親を連れ去ったと思っている」と、妻のアレクサンドラ・ボロンツォワ(Aleksandra Vorontsova)さんはAFPに語った。

 ボロンツォフ氏は2017年、ゆすりの嫌疑をかけられ、13年間勤めたモスクワ警察を退職した。同氏の支持者らは、同氏が同年立ち上げたオンブズマン・プロジェクトが逮捕の本当の理由だと指摘する。警察官の権利を守り、上層部による職権乱用を暴く、ソーシャルメディアを活用した一連の活動だ。

■警察内で巻き起こる異例の抗議

 ボロンツォフ氏の逮捕は、警察内で激しい抗議活動を巻き起こした。ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の統治を支える重要な柱の警察で、このような動きが起こるのは異例だ。観測筋は、やがてロシア政府にもトラブルが波及する可能性を指摘している。

 真に独立した警察の労働組合が存在しないロシアでボロンツォフ氏の取り組みは注目を集め、50万人以上のフォロワーを引きつけていた。

 ボロンツォフ氏は法執行機関内での汚職の疑いを暴露し、罰金と逮捕のノルマを課せられた警察官にかかるプレッシャーを非難。警察官の長時間労働と自殺についての投稿も関心を集めていた。こういった問題についての正確な数値は公表されていない。また、警察による過剰な暴力の行使にも批判的だった。

 75万人の巨大組織であるロシアの警察の職員らが当局に対し初めて、ボロンツォフ氏の扱いだけでなく、警察の職務と権力の執行手法についても、公に異議を唱えた。

 国内の現旧警察官数十人がソーシャルメディア上で、ボロンツォフ氏の釈放を呼び掛けている。数人はAFPに対し、反撃を受けたとしてもボロンツォフ氏を支持することが重要だと語った。