【7月19日 AFP】6月に放映されたイスラエルのテレビ番組で、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)の一部地域のイスラエル併合を希望すると述べたパレスチナ住民数人が、パレスチナ当局に逮捕された。関係筋が明らかにした。

 ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は1月に発表した中東和平案で、国際法上違法とみなされているユダヤ人入植地を含めたヨルダン川西岸の広い範囲をイスラエルに併合するための支援を約束した。

 だが、パレスチナ自治政府はヨルダン川西岸のいかなる部分の併合も一切認めておらず、またパレスチナの世論調査でも圧倒的多数がそれに同意している。

 そうした中、イスラエルのテレビ取材に応じた西岸地区在住のパレスチナ人らは、パレスチナ当局や世論とは真っ向から異なる意見を述べた。番組でのインタビューは隠しカメラで撮影され、個人の顔や音声は身元が分からないよう加工して放映された。

 1人目は「イスラエルの身分証が欲しい」と述べ、2人目は「イスラエルが敵なんじゃない。イスラエル政府が敵なのだ」と答えた。3人目は、自分は「イスラエルを選んだ」のであって、公の場でそれを口にすることも怖くないと述べた。

 この報道番組を制作したイスラエルの著名なジャーナリスト、ツビ・イェヘズケリ(Tzvi Yehezkeli)氏によると、インタビューの中でイスラエルへの併合を支持すると語った少なくとも6人が、後にパレスチナ当局に逮捕されたという。

 イェヘズケリ氏はAFPに対し、「撮影した全員の顔をぼかし、声を変えたにもかかわらず、(パレスチナ)当局が身元を割り出し、(数人を)拘束したことに非常に驚いている」と語った。

 だが、AFPの取材に応じたパレスチナ自治政府内務省報道官のガーサン・ニムル(Ghassan Nimr)氏は「われわれはこの件に関して誰も逮捕していない」と答え、パレスチナ警察報道官も同じく否定した。

 パレスチナの指導者らは、イスラエルへの併合は永続的な和平と2国家共存という解決策へ向けた希望を打ち砕き、新たな蜂起に火をつける危険性があると警告している。パレスチナ人を対象に先月行われた世論調査では、回答者の88%が「トランプ案」に反対し、52%が武装闘争の復活を支持すると答えた。ここ数週間では、ヨルダン川西岸の併合やトランプ案に対する抗議デモも広がっている。

 それにもかかわらず、パレスチナ自治区で約4半世紀にわたって特派員を務めるイェヘズケリ氏はAFPに対し、パレスチナ指導部の徹底的な対立姿勢を共有していないパレスチナ人も多くいることに気付いたと指摘。

 インタビューでは「われわれは併合など気にしていない」「パレスチナ自治政府は失敗した」「腐敗している」などと述べる人もいたという。

 AFPが接触したあるパレスチナ人は、イェヘズケリ氏のインタビューに答えた親戚の一人が数週間、パレスチナ警察に拘束されていたと述べた。間もなく裁判が始まるという。

 だが、逮捕される「恐怖」はあるが、自分も同じくイスラエルへの併合を支持しており、「イスラエルがわれわれに市民権を与えてくれる」ことを期待していると語った。

 パレスチナの一部の識者は、こうした発言は占領下で数十年を過ごし、長い間望んでいた平和と繁栄を否定された人々の深い落胆を反映しているという。

 だが、イスラエルが平等な市民権をパレスチナ人に認めて受けいれる用意があるかといえば、答えはおそらくノーだ。

 イスラエルのベンジャミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は5月下旬、併合される地域に暮らすパレスチナ人がイスラエルの市民権を持つことはないだろうと述べた。

 パレスチナ当局も併合された場合についてはもはや責任を負えず、併合地域のパレスチナ住民の法的地位がどうなるかは不透明なままだ。(c)AFP/Alexandra Vardi and Michael Blum