【7月13日 AFP】北極海の端に位置するロシアの極北、ネネツ(Nenets)自治管区で5月、隣のアルハンゲリスク(Arkhangelsk)州と合併させるという政府の計画に対し、抗議運動が展開された。

 先住民団体のメンバーで、ネネツの自治を支持するリュドミラ・ラプタンデル(Lyudmila Laptander)さん(61)は「ネネツが他の州と合併されてしまったら、私たちの言葉や伝統を守る人がいなくなって、忘れ去られてしまう」と訴える。

 政府の合併計画は、広範囲にある豊富な鉱物資源の採掘合理化が目的だった。だが、住民4万4000人の抗議活動によって、計画は葬られた。ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領の統治に対し、反対の声が上がるのはまれだ。

 今月上旬に行われた、プーチン氏が提案した改憲をめぐる国民投票でも、ロシアを構成する共和国や自治体のうちネネツだけが、55%以上の反対票で改憲を拒否した。

 土地を大切にする先住民の教えを守りつつ、何世代も続いてきたトナカイとの遊牧生活は今、鉱物資源の採掘や温暖化の影響で北極圏に新たにできる航路など、ロシア政府の戦略的優先事項によって脅かされている。

 また住民の多くは、アルハンゲリスク州との合併によって、遊牧など地域の伝統の継承を可能にしてきたたっぷりの助成金が、大幅に削減されると懸念している。

 改憲をめぐる国民投票の前、ネネツの住民たちは署名、デモ、インターネットを通じた抗議行動などで合併反対運動を展開した。抗議を呼び掛けた人々は、人里離れた村々へもボートやヘリコプターで運動のパンフレットを届けた。

 公務員を退職後、抗議運動に加わっているビクトリア・ボブロワ(Viktoria Bobrova)さん(57)は、プーチン氏の改憲案に反対票を投じることだけが、「私たちの自治の願いを届ける」方法だったと語る。

 国民投票の際、地元の活動家らは不正がないかどうかを綿密に監視していた。9月13日の地方選挙に向けた貴重な予行演習だったと、活動家らは話す。

 ネネツ自治管区のトップは国民投票の後、もはや合併案は検討議案ではなくなったと認めた。だが、将来合併が起きる可能性はまだあるとして、運動家らは警戒を緩めていない。

 北極圏開発を目的とした大規模インフラ事業計画もある。インディガ(Indiga)村に深海港を建設し、鉄道でアルハンゲリスクと結ぶという、ネネツ当局が推進している計画だ。

「広大な湿原を横切る鉄道の建設は難しいし、巨額の費用がかかるだろう」とボブロワさんは批判する。「まるで月に列車を送ろうというような計画だ」 (c)AFP/Romain COLAS