【7月12日 東方新報】中国で一般市民を対象にした自動運転タクシーの公道テストが始まっている。人が操作しない完全自動運転の「レベル4」の段階に突入。しかも自動車メーカーでなくIT企業や配車アプリ企業が計画を主導しており、世界の最先端を進もうと中国企業の間でしのぎを削っている。

「スタート、カーブ、停車、すべて本当に自動なのは分かっていたけど、目の前でハンドルが小刻みに動いて車間距離を取ったり道路の中央を走るよう細かく調整したりするのは驚いた。見えない誰かが運転しているようだ」

 中国IT大手「百度(Baidu)」が湖南省(Hunan)長沙市(Changsha)でテストしている自動運転タクシーを体験した乗客は、そんな感想を漏らしている。

「中国のグーグル」とも呼ばれる百度は2017年から自動運転の領域に参入。独フォルクスワーゲン(VW)や米インテル(Intel)、日本のトヨタ自動車(Toyota)、パナソニック(Panasonic)などが参加する開発連合体「アポロ計画」を設立した。人工知能(AI)やビッグデータ、高精度マップ、ディープラーニングを活用した車載ソフトウエアなど豊富なノウハウを生かし、百度の担当者は「昨年末までに1万回の乗車実験を行い、データを蓄積した」と話す。そしてわずか3年間でレベル4の自動走行を可能にし、今年4月から国内で初めて一般市民を対象にした自動運転タクシーのテストを始めた。

 長沙市の公道テストは住宅地や商業地など130平方キロの広範囲で行っている。45台の車両は国内大手・第一汽車集団(FAW Group)の電気自動車(EV)「紅旗EV」をベースとしている。乗客は百度が提供する地図アプリに目的地を入力し、テスト段階のため無料で利用している。まだ乗り降りする場所は50か所に指定し、車内には「安全員」が座って非常時は手動運転を行う態勢を確保しているが、百度の担当者は「重大なトラブルは起きておらず、レベル4の段階を実現できている」と胸を張る。

 一方、中国配車アプリ最大手の滴滴出行(Didi Chuxing)は6月から、上海市で自動運転タクシーのテストを始めた。無料サービスで、車内に安全員が座るのは百度と同じ。タクシーのライドシェア(相乗り)サービスで急成長を遂げた滴滴は、5億5000万人を超える利用者の走行データを持ち、百度に負けじと自動運転のデータを集めている。滴滴は2018年にライドシェアの企業連合「洪流連盟(Dアライアンス)」を立ち上げており、こちらもトヨタやフォルクスワーゲンなどが参加している。

 自動運転の精度は「ビッグデータの量」次第といわれる。AIがどれだけ多くの走行パターンや利用シーンを想定・学習するかで、実際の判断や対応力が決まるからだ。このため、百度や滴滴といった企業が自動運転の技術をリードしている。

 中国は今や世界有数の自動車販売大国となったが、中国政府は自動運転やEVで世界の先端を進む「自動車強国」への進化を目指している。終わりが見えない米国との経済対立が続く中、政府は自動運転の技術開発への支援を強化している。(c)東方新報/AFPBB News