【7月9日 AFP】ネズミには困っている仲間を助ける習性があるが、近くにいる他のネズミが協力的でない場合、手助けする確率が下がるとの実験結果が8日、米学術誌「サイエンス・アドバンシズ(Science Advances)」に発表された。いわゆる「傍観者効果」に新たな光を投げ掛ける研究だ。

 論文の上席著者であるシカゴ大学(University of Chicago)の神経生物学者、ペギー・メイソン(Peggy Mason)氏は今回の発見について、警官の過剰な暴力を居合わせた同僚が傍観してしまうのはなぜか、など特定の人間の行動を説明する一助になるとAFPに語った。

 実験ではまず、ネズミは器具の中で身動きできずにいる仲間に出くわすと通常、扉を開けて救出しようとすることを確認した。

 次に、鎮静薬ミダゾラムを少量投与した1~2匹のネズミを、救出を手伝わない「傍観者」として実験に投入した。すると、困っているネズミと一対一のときには仲間を助けようとしたネズミは、今度は何もせずそばにいるだけで、救出しようとしなかった。

 さらに、鎮静剤を与えないネズミを「協力的な傍観者」として実験に投入したところ、ネズミは一対一のときより張り切って仲間を助けようとした。

 メイソン氏は、米警察の人種差別に抗議する最近のデモで、負傷した参加者を助けるため他の参加者が集まる一方、警官らが傍観している点に言及し、「これは非常にタイムリーな研究だと思う」と主張。「ジョージ・フロイド(George Floyd)さんの事件では、他に3人の警官が現場におり、うち1人は黒人に対して警察が過剰な暴力を振るう現状を変えたいと思って警官になった人物だった。それでもなお、彼は止めに入らなかった」と述べた。

 メイソン氏の研究チームは、人間でもネズミと同様に、相手を助けるか否かの決定は誰が責任を負うべきかという概念よりも、脳内の報酬回路に関係するとみている。(c)AFP/Issam AHMED