鼻先が軽くスポーティな走りもXJ6の魅力だ。ステアリングは思いのほかクイック。

ブルックランズ・グリーンというソリッド・カラーのボディが美しい1987年式のジャガーXJ6をインターネットの個人売買サイトで見つけたのは、2019年8月だった。古いジャガーに手を出すことにちょっと迷いはあったけれど、前オーナーにクルマを見せてもらってからは、自分の気持ちを抑えることができなかった。翌月には、走行8万kmのXJ6シリーズⅢが我が家のガレ—ジに納まったのである。

ジャガーを買った

ジャガーXJシリーズを少しおさらいしよう。初代のデビューは1968年。ボディ・スタイリングは「美しいクルマは必ず売れる」という信念を持っていたジャガー創設者で、デザイナ—でもあったウィリアム・ライオンズが手掛けた。スポーティ・サル—ンとして大成功を収めた初代は1972年にマイナーチェンジを受け、シリーズⅡへと進化、1979年にはシリーズⅢとなり、1987年4月まで生産され、XJの名はその後40シリーズヘと引き継がれていく。XJはジャガーのフラッグシップ・サルーンとして今日まで続いて来た。次期モデルは電気自動車になるらしい。

私が買ったのは1987年式なので、シリーズⅢの最終モデルとなる。当時の正規ディーラー、オースチン・ローバー・ジャパンが販売したものだ。32年も前のクルマなのに驚くほど綺麗な内外装を持っている。初代オーナーがエアコンの効いたガレージで保管し、雨の日は乗らなかったらしい。納車時にセカンド・オーナーから「これは初代オーナーからの申し送り状です」と、書類を渡された。そこにはエンジンの掛け方から洗車の方法までがビッシリと困いてあり”これまで愛情を注いできました。これからも大事に扱ってください“ と結んであった。

初代オーナーからの申し送り状。オイル粘度、空気圧はもとより、レザー・シートのお手入れなど、細かく記載されている。申し送り状は3代目の私に引き継がれた。

260万円

価格は260万円。某都市銀行の一般ローンを組んでのポチポチ払いである。参考までに書くと、個人売買の場合、銀行の「自動車ローン」は使えないと考えたほうがいい。銀行の「自動車ローン」は金利が低くて魅力的だが、ディーラーや中古車屋などからの購入を対象としており、ローン審査に業者からの見積書が必要になるからだ。私の受けた通常ローンでも、該当車両の写真や詳細が載ったインターネット画面をプリントして提出する必要があった。

「高いんじゃないの?」と言う人も多かったが、これほどの美車に巡り合うことはないと思っているので、後悔はない。

ドアを開けると、磨き上げられた美しい木目パネルが目に飛び込んでくる。柔らかいレザ—の運転席に腰かけ、ウッド・パネルと円形のアナログ・メーターを見ているだけで心が和む。なんて趣味がいいんだろう! 上品なインテリアに包まれていると自分も年相応の紳士に近づいたような気分になる。ふと、ある人を思い出した。

ウッド・パネルとマグノリア・レザーの組み合わせが美しいXJ6の室内。新車当時から32年を経てもパネルにはヒビ割れひとつない。
4.2リッター直6DOHC (178ps、297Nm) +3AT。

加藤和彦さん

英国趣味で思い出すのは、ミュージシャンの加藤和彦さんだ。もう亡くなって10年経つけれど、生前に何度も訪ねた自宅のことはいまでもハッキリ覚えている。加藤さんのリビングの調度品はヨーロッパ・テイス卜で統一されていて、テ—ブルの上にはロンドン、サビルロウから取り寄せたスーツの生地見本などが置かれていた。一見、散らかっているような室内だが、見事に調和されているのが印象的だった。加藤さんの美意識により、あるべき物がそこに置かれているという気がした。

愛車も英国車だった。加藤さんが初めて買ったクルマはロールスロイス、その後もアストン・マーティンやジャガーなど数台のイギリス車を持っていた。生前、私以上に加藤さんと懇意だった京都のMさんに「ジャガーを買ったら加藤さんを思い出しました」とメ—ルをすると、加藤さんから譲ってもらったジャガーEタイプをまだ持っているという。

加藤さんのジャガーに、ジャガーに乗って会いに行こう!  XJ6の初ドライブを京都に決めた。

文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正

(ENGINE2020年2月号)