【7月11日 AFP】山の端の向こうに太陽が沈むと、薄闇の中でひとつ、またひとつと点滅し始める。やがて何千というホタルが行き交う光の乱舞は、長野県辰野町で見られる初夏の絶景だ。

 しかし今年のホタルたちは、見る人のいない山里で静かに舞っていた。新型コロナウイルス感染拡大防止のため「信州辰野ほたる祭り」は中止となったからだ。

 その決定はホタル愛好家らをがっかりさせたかもしれないが、ホタルが静寂の闇夜を輝きながら舞う様子はひときわ穏やかな雰囲気を醸し出した。

 ホタルの光は初夏、生涯の最後にあたる10日間しか見られない。

 辰野町の観光係長・船木克則(Katsunori Funaki)氏はAFPに対し、「( ホタルが輝くのは )求愛行動ですね。オスとメスが出会うときのコミュニケーションのための光というふうに言われております」と語った。「10日間という短い間に、パートナーを見つけて卵を産みます」

■「日本独特の美学」

 長野県中部の天竜(Tenryu)川流域にある辰野町では、雨も風もない条件が整うと、6月の多い時には3万匹ものホタルが舞うという。

 かつてその上流で発達した製糸工場や精密機械工場で川が汚染され、同地域のホタルは絶滅の淵に追いやられたことがある。

 戦後、辰野町は環境を取り戻しホタルを保護するために懸命な活動を行った。現在、毎年夏のほたる祭りに数万人が訪れるほどになった。

「日本の独特の美学に通ずるかもしれないが、一年中見られないから大事なものだと感じる」と、武居保男(Yasuo Takei)町長は語った。(c)AFP/Harumi OZAWA

*6月13日から21日まで行われる予定だった「ほたる祭」は中止となりました。集客による三密を避けるため、本稿はホタルの時期を終えてからの配信となっています。現在辰野町を訪れてもホタルの乱舞を見ることはできません。