【7月6日 AFP】「奴隷制はジェノサイド(大量虐殺)ではなかった」と発言した英国の歴史学者が、ケンブリッジ大学(Cambridge University)の名誉フェローを辞任したことが分かった。出版大手ハーパーコリンズ(HarperCollins)も、今後は同氏の著書を出版しないと発表した。

 デービッド・スターキー(David Starkey)教授は、英チューダー(Tudor)朝が専門。チューダー王家が英国を治めていた1500年代は、欧州諸国がカリブ海(Caribbean Sea)や南北米大陸で植民地を拡大し、奴隷貿易が盛んに行われていた。

 スターキー氏は6月30日、右派の英国人コメンテーター、ダレン・グライムズ(Darren Grimes)氏とのオンラインインタビューで「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動について、「米国の黒人文化の最悪な側面」を象徴していると発言。次のように続けた。

「奴隷制はジェノサイドではなかった。でなければ、アフリカや英国にこれほど多くのいまいましい黒人はいなかっただろう。かなり大勢が生き残ったということだ」

「英国では1830年代に奴隷制を廃止したが、ほぼ同時にカトリック教徒解放が起きた。われわれは、それについてわめき散らしたりしない。歴史の一部であり、もう解決された問題だからだ」

 この発言に対し、パキスタン系のサジド・ジャビド(Sajid Javid)前英財務相は今月2日、ツイッター(Twitter)への投稿でスターキー氏を「人種差別主義者」と非難した。ジャビド氏は以前から、パキスタンから英国に来た父親が差別に直面したことを語っている。

 ジャビド氏のツイートが英メディアで報じられた翌日、ケンブリッジ大学フィッツウィリアム・カレッジ(Fitzwilliam College)はスターキー氏の辞表を受理した。また、スターキー氏が客員教授を務めていたカンタベリー・クライスト・チャーチ大学(Canterbury Christ Church University)も、同氏を解任した。

 ハーパーコリンズ英国法人は、スターキー氏の見解を「道徳的に許し難い」と指摘。同氏の著作の出版は今後一切行わないと表明するとともに、同社から出版された過去の著作についても、同氏の発言や見解を踏まえた再調査を行っていることを明らかにした。(c)AFP/Dmitry ZAKS