【7月6日 AFP】「米国の英雄たち」の彫像で埋め尽くされた、新たな国立公園を造る──ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は先週末、歴代米大統領4人の顔が岩に彫られたサウスダコタ州のラシュモア山(Mount Rushmore)の麓で行った独立記念日の演説で、驚きの構想を打ち出した。だが、これが米国民の深刻な分断と党派対立を改善する方策になるとは到底考えられず、数々の疑問も浮上している。

 2026年7月4日の開園を目指すという国立公園は、どんな外観となり、また誰を記念するものとなるのか。

 11月の大統領選が4か月後に迫る中、どうやら事前の協議も一切なく突然発表された構想は、米大統領が国を一つにまとめるふりすら諦め、代わりに特定の組織票を別の組織票と戦わせることを選んだというイメージを強めるものだ。

 折しも全米各地では、人種差別に抗議するデモ隊が、人種差別の歴史を美化しているとして南北戦争(American Civil War)で南軍として戦った将軍らの像の撤去を要求したり、力ずくで引き倒したりする例が相次いでいる。トランプ氏は包括的な議論を避け、デモを暴力行為と非難することで、自身を「マルクス主義者や無政府主義者、扇動者や略奪者」と対峙(たいじ)して米国の「品位」を守る立場と位置付けた。

 プリンストン大学(Princeton University)のジュリアン・ゼリザー(Julian Zelizer)教授(政治史)は、トランプ氏の「米国の英雄たちの国立庭園(National Garden of American Heroes)」構想は完全に政治的な策略だと指摘する。

「トランプ氏は、特定の立場から語られる米国史を利用して『急進左派』に対する攻撃を推進し、政権の新型コロナウイルス対策の失敗に不満を募らせているとみられる保守層にアピールしようとしている」と、ゼリザー氏はAFPに語った。

■奇妙な人選

 トランプ氏の思い描く「広大な野外公園」には、「これまでの歴史の中で最も偉大な米国人たちの像が立ち並ぶ」という。だが、「偉大な米国人たち」とは誰のことで、その人選は誰が行うのか?

 トランプ氏が示した暫定リストには、ジョージ・ワシントン(George Washington)初代大統領や公民権運動の指導者マーティン・ルーサー・キング(Martin Luther King Jr.)牧師、西部開拓時代の英雄デイビー・クロケット(Davy Crockett)、著名なキリスト教伝道師ビリー・グラハム(Billy Graham)、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)元大統領、保守の中の保守として知られたアントニン・スカリア(Antonin Scalia)最高裁判事らが掲載されていたが、近代米国史における左派は一人も含まれていなかった。

 米歴史学会(American Historical Association)のジェームズ・グロスマン(James Grossman)会長は、「人選は奇妙なものから恐らく不適切なもの、挑発的なものまでさまざまだ」と米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)に語った。

 ホワイトハウス(White House)は、顕彰されるのは政治指導者、投資家、スポーツ選手など米国の公人・私人に加え、「米国の発見、発展、独立に貢献した非米国人」も含まれる可能性があるとの見解を示し、米大陸を発見したイタリアの探検家クリストファー・コロンブス(Christopher Columbus)と米独立戦争で米国側について戦ったフランス人ラファイエット侯爵(Marquis de La Fayette)の名を挙げた。

 米政界では今のところ、トランプ氏の構想について言及する政治家はほとんどいない。例外がトランプ政権のユージーン・スカリア(Eugene Scalia)労働長官で、自身の父親が候補に入っていることにいたく感動。「われわれには英雄が必要だ」「先人を称賛し、過去の偉大なことや良いことを認識する必要がある。まさに大統領が強調していることだ」とFOXニュース(Fox News)で力説し、トランプ氏の提案を称賛した。(c)AFP/Jerome CARTILLIER