これまでに出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台はなにか? 多くのクルマを知る自動車ジャーナリストとエンジン関係者59名が、それぞれの人生で出会った「決定的なクルマ」について綴ったエッセイです。スタイリストの祐真朋樹さんが選んだのは、「憧れのオープンカー」。人生を変えたクルマの物語をどうぞお楽しみください。

車も心もオープンに

雑誌ENGINEのファッション・ディレクターを務める、スタイリスト祐真朋樹さんにとってのクルマのクルマ、そしてスタイリッシュなファッション・スタイリングの原点は、誰もが知る、傑作アニメにあった!?

車への憧れは、3歳の時にテレビで見たアニメ『マッハGoGoGo』から始まった。5歳年上の兄と毎週見ているうち、僕は『車』のとりこになった。そんなある日、兄が『マッハGoGoGo』のプラモデルを本棚に飾っていたのを見て僕も欲しくなり、母に頼んで買ってもらった。が、当然3歳の僕には上手く作れるわけはなく、途中で疲れて寝てしまった。が、その翌朝、僕が目覚めると、枕元には完成したマッハ号が置かれていた。兄が僕の苦戦する姿を見かねて作ってくれたのだ。寝る前の悩みが起きたら解決。この感動的な出来事は生涯忘れられない。母親からは「お兄ちゃんに感謝しいや」と言われたが、感謝というよりも、兄への尊敬と深い信頼感が心に芽生えた。マイ・ヒーローとしての兄の存在が心に刻まれた。

『マッハGoGoGo』の主人公、三船剛は、ヘルメットをかぶって首にはスカーフを巻き、まるでバイクに乗るようないでたちでオープンカーに飛び乗る。その軽やかな身のこなしと相まって、普段、僕の周りで見ていた「車」とはまったく趣を異にするものと出会った感があった。以来、僕にとってオープンカーは憧れの存在となったのである。

ファッション目線で言えば、格好いいオープンカー・スタイルを見られるのは、圧倒的に古い映画の中だ。単に車のデザインだけではなく、車を取り巻く街の姿や登場人物に酔わされる。僕が特に気に入っているのは、巨匠、フェデリコ・フェリーニ監督の『甘い生活』に出てくる2台のオープンカーだ。マルチェロ・マストロヤンニ演ずる主人公の記者が乗るのは、イギリスの「トライアンフTR3A」。お洒落したマルチェロが、美しいハリウッド女優や恋人などを横に乗せ、夜のローマを車で流す姿に惚れ惚れする。コロナ禍の現在には避けるべき密着ツーシーターが渋い。白いジャケットに細身のダークスーツ。イタリアン・クラシックを完璧なドレスダウンで着こなすマルチェロが、古都ローマでイギリスの高級車を乗り回す。もう一台は、アヌーク・エーメ演じる有閑マダムが乗る「キャデラック・エルドラド」。闇に包まれた深夜のローマを走るアメ車が美しい。劇中では、マルチェロが助手席に乗るのだが、心から羨ましく思ったものである。

ジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』に登場する2台のオープンカーも魅力的だ。青いアルファ・ロメオのジュリア・スパイダーを運転するアンナ・カリーナは眩しいほど輝いている。そして、もう1台は車種がわからない(フォードのスクエア・バーズかも)。盗んだオープンカーで、主人公のジャン=ポール・ベルモンドとアンナがその車ごと海へ飛び込むシーンは大胆でイカしてる。シルバーグレーのボディに真っ赤な4シーターが印象的だ。オープンカーがクルーザーに変わるのかと期待させる、勢いよく飛び込むシーンが目に焼き付いている。『マッハGoGoGo』で始まったオープンカーへの憧れだが、オープンカーにはつまり、非現実的なシチュエーションやお洒落なファッションが不可欠だと気づく。美味しいシャンパン、ゴージャスな美女、気ままな放浪……などなど。まあ、僕の毎日の中でそれをリアライズすることは不可能だと思うから、本気でオープンカーに乗る気はない。いつまでもその憧れを胸に秘めていたいと思うのみである。

この写真は僕が4歳の時のもの。京都の大丸百貨店の屋上でぶっ飛ばしているつもりで喜色満面の表情をしている。父親がその瞬間を捉えてくれた。あれから50年経ったが、あの心躍る気分は今も忘れていない。最新のAIを駆使し、マルチェロのようにシャンパンを飲みながら「トライアンフTR3A」を乗り回せる、そんな大人のアミューズメントパークがあれば、人気を博するのではないかと思うのだが。もし実現したら、飛び切りお洒落をして挑みたいと思います。

文=祐真朋樹(スタイリスト) 写真=祐真一男

photo: @maedamaeda305

(ENGINE2020年7・8月号)