2020.08.05

CARS

30歳そこそこの背伸びしたい年頃に思い切り好奇心を満たせたのはこのクルマのおかげ! フードライターの小松めぐみさんを支えたドイツ製の高性能GTカー!!

BMW528iMスポーツ

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これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。フード・ライターの小松めぐみさんが選んだのは、「BMW528iMスポーツ」。大きくて高速を飛ばせる」BMW。美食を求めて毎週のように箱根・伊豆へと通っていた。

相棒に恵まれる幸せ

思い出のクルマは、29歳の時に初めて自分で買ったBMW528iMスポーツです。昔は「20代のうちにメルセデスを買える大人になろう」と思っていたのですが、それは働くモチベーションをアップさせるため。なんとか達成できそうな目標として設定したのが、周りの大人が乗っていた外車を購入することでした。

そんなある日、縁あって「エンジン」編集部で仕事をさせていただくことになり、クルマ購入のチャンスが到来。元外車ディーラー勤務の編集者N村さんのツテで、新古車を探していただけることになりました。私の希望は「大きくて高速道路を飛ばせるクルマ」。クルマを買ったら地方のオーベルジュや名店を巡ろうと考えていたので、目的地まで疲れずに早く着けるクルマがよかったのです。大学時代に乗っていた親のお下がりのクルマは年季の入ったクラウンで、飛ばすとハンドルがぶれるのが微妙なストレスでした。


BMW528iMスポーツは、ディーラーさんが提案してくれた2台の新古車のうちの1台です。当初の購入目標だったのはメルセデスですが、試乗した時の乗り心地のよさからBMWに即決。ハンドルもギアも反応がよく、加速がなめらかでブレーキの効きがよいと、運転が上手くなったような気がするものですね。喜びのあまり毎週のようにドライブ・ランチに出かけるようになり、積極的にドライブ企画を立てたりしていました。箱根・伊豆エリアには週2回以上通っていた時期もあります。

特に好きだったのは、三島を通って修善寺に行くルートです。目的地が箱根だと厚木で東名を降りることになり距離的にちょっと走り足りないのですが、沼津までだと走り甲斐もあって疲れません。乗り始めてすぐにそんな感覚を持つようになったのは、BMWのキャッチコピーでもある「駆けぬける歓び」に目覚めてしまったためでしょう。

食通の知人に教わって三島でよく訪れた「うなぎ 桜家」は、1856年創業の老舗です。三島にうなぎ料理店が多いのは、富士山の湧水に恵まれているため。活うなぎを生かしながら保管する「立場」という施設では大量の水が必要とされますが、三島は湧水が豊富なため、問屋だけでなく飲食店でも立場を作りやすいのだそうです。「うなぎ 桜家」の建物内にも立場があり、うなぎはそこで富士山の湧水に打たれ、臭みが抜かれています。そのうなぎを高温の備長炭で丹念に焼いて水分を抜き、秘伝のタレを塗った蒲焼きは、まさに絶品。ふっくらと柔らかでしつこさがなく、ボリュームがあるのに軽やかな美味しさです。週末は開店前から行列ができるほどの人気店ですが、予約ができないため、並ぶ時間も計算して出かけていました。

次の目的地・修善寺は、桂川の清流と竹林が美しい温泉地。「あさば」は、なかでも古い歴史をもつ名旅館です。敷地内の広大な池に浮かぶ能舞台では、以前から「修善寺藝術紀行」と題した日本の伝統芸能の公演が不定期に行われています。内容は能楽、狂言、新内、文楽、琵琶楽など。今はホームページに公演予定が掲載されていますが、昔はハガキでお知らせをいただいていました。それを見て気になる公演があれば電話をかけて予約するのですが、能楽と狂言は大人気ですぐに売り切れてしまいます。私が予約できたのは、新内の日でした。新内が江戸時代に生まれた浄瑠璃のひとつだということは、この時に調べて初めて知りました。

訪れたのは七夕の前日。鮎の炭火焼きや名物「穴子の黒米寿司」などの夕食を味わった後、闇夜の小舟で始まった浄瑠璃は哀切な節回しが独特でした。おそらく30歳そこそこの私にはわからない魅力もあったはずですが、今ならもう少し深く味わえそうな気がします。

振り返ってみれば、背伸びしたい年頃に思い切り好奇心を満たせたのは、このクルマのおかげ。いい相棒に恵まれるとフットワークが軽くなることを実感した、思い出の1台です。


写真上/「あさば」の能舞台で不定期開催される「修善寺藝術紀行」は、毎回一流の師を招いて行われる伝統芸能の公演。写真は「新内」の一コマ。写真右/七夕の前日にテラスに出された笹飾り。写真中央/三島「桜家」の「うなぎ重箱」。


文=小松めぐみ(フード・ライター)

photo by Tamon Matsuzono

photo by Tamon Matsuzono


(ENGINE2020年7・8月合併号)

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