【6月28日 AFP】ドイツの首都ベルリン市内のベルリン大聖堂聖歌隊(Berlin Cathedral Choir)がリハーサルのために集合した3月9日の時点では、新型コロナウイルスに対する懸念はまだ現実味がなく、市内で確認された患者は50人足らずしかいなかった。

 だが5日後、聖歌隊のメンバー80人のうちの1人から、指揮者のトビアス・ブロマン(Tobias Brommann)氏の元に連絡があった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査で陽性反応が出たという。それから2週間でメンバー約30人が検査で陽性と判明し、さらに30人に症状が出ていた。この中にはブロマン氏も含まれ、頭痛、せき、発熱などの症状に見舞われていた。

 歌唱、特に合唱はこれまで、危険な要素などほとんどない活動と見なされてきたが、新型ウイルスの感染が拡大する中、最も危険な行為という悪評が急速に広がっている。

 新型ウイルスの感染が広がる仕組みについてはまだほとんど解明されていないが、歌唱は特に危険性が高いとドイツ当局に確信させるだけの事例証拠は十分にある。

 ドイツの各州では、規制解除が段階的に導入されているが、歌唱はいまだに広く禁止されており、当面はこの状態が続く可能性が高いと思われる。

 歌唱で感染が広がるという懸念は、ブロマン氏が指摘するように、歌っているときは「息を非常に深く吸ったり吐いたりしているので、ウイルス粒子が空中を漂っていると、比較的速やかに肺に入り込む可能性がある」という点に基づいている。

 歌唱によって潜在的な感染性微粒子が大量に生成されることを示す証拠もある。2019年に英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された研究論文によると、30秒間「アー」と発声し続ける間に生成される感染性微粒子の数は、30秒間せきをし続ける場合の2倍だという。

 一方で、楽観できる理由を提供する研究もある。独ミュンヘン連邦軍大学(Bundeswehr University in Munich)は3月初めに、歌唱の際に空気の流れが乱れる距離は、歌い手の前方最大50センチ程度までであることを示す論文を発表した。独フライブルク大学(Freiburg University)パフォーミング・アーツ医学研究所(Institute for Performing Arts Medicine)が発表した歌唱に関するガイドラインも、同研究所が独南部の都市バンベルク(Bamberg)で実施して得た同様の研究結果を根拠の一部としている。