【6月25日 AFP】1997年、英国の植民地だった香港が中国に返還される前、サイモン・ンー(Simon Ng)さん(52)は「英国海外市民(BNO)旅券(パスポート)」を取得した。この書類が必要になるとはこれまで思ったこともなかったが、ンーさんは今、これを使って移住するかどうか悩んでいる。

 香港で1年にわたって続いてきた大規模な民主化デモへの対応策として、中国政府は広範囲に適用可能とされる「国家安全法」を香港に導入しようとしている。それがきっかけとなり、ンーさんは、返還以来初めて、香港を出て行くことを検討し始めた。

「(返還)当時は多くの同胞と同じように、中国は変化するだろうと思っていたし、希望があった」。助教として大学に勤めるンーさんはAFPに語った。「だが、今は暗い時代だ。未来は今よりさらに悪くなる可能性が高い」

 BNOパスポートには制約がある。これがあれば香港住民は英領事館に申請して、最長6か月間の英国滞在許可を得られるが、移住や労働は認められていない。だが今や、BNOパスポートが持つ価値は一変した。中国政府が先月、反政府行為や分離独立の動き、テロ、外国の介入を禁止する国家安全法を香港に導入すると発表したためだ。

 中国政府は、特別行政区である香港の立法会(議会)を無視して行使するとみられる国家安全法について、「テロ」や「分離主義」に対処し、1年にわたるデモで揺らいだ香港の信頼を回復するために必要だと主張している。

 しかし、批判勢力が懸念するのは、経済活動の一大拠点である香港の自由と自治は返還後50年間は保障されることになっていたにもかかわらず、中国本土式の政治的抑圧がもたらされることだ。

 英国はこの国家安全法を香港返還合意に違反するものと見なし、対応策として「市民権獲得への道」も視野に入れたBNOパスポート保持者の在留権拡大を検討すると発表した。これに激怒した中国政府は、英国側の返還合意違反だと非難している。