【6月20日 AFP】絹のように柔らかい最高級のカシミヤの一種、「パシュミナ」が品薄になる懸念が生じている。「世界の屋根」ヒマラヤ山脈(Himalayas)でパシュミナの原毛を産出しているヤギが、インドと中国の国境をめぐる対立のあおりを受けているのだ。

 インド・ラダック(Ladakh)地方の寒地荒原で遊牧民が飼育しているヤギの毛は、カシミヤの中でも最も高価で需要がある。しかし地元の人々や当局は、ヤギが中印国境近くの放牧地から追いやられ、今季は子ヤギ数万匹が死んでいると指摘する。

 核保有国である中印両国の間ではここ数週間、正確には確定していない3500キロに及ぶ国境をめぐって緊張が高まり、両国の兵士の間で小競り合いが多発している。15日にはラダック地方にあるガルワン(Galwan)渓谷で衝突が発生し、インド兵少なくとも20人が死亡した。

 元公職者のジュルメット(Jurmet)さんは、ラダック地方のレー(Leh)でAFPの電話取材に応じ、「さんざんだ。中国人民解放軍(PLA)は以前はよく、私たちの側に数メートル侵入していたが、今回は数キロも入り込んで来ている」と語った。「よりにもよってヤギの繁殖期に。今年(2月に)はヤギの大群が放牧地から寒冷地に締め出され、子ヤギの約85%が死んだ」と語った。

 匿名でAFPの取材に応じたインドの当局者によると、数万匹という膨大な数のヤギが死んだことで、今後数年間は毛織物業界が打撃を受ける可能性があるという。

 この地域のヤギの毛でつくられる極めて軽く非常に高価なカシミヤの産出量は、年間およそ50トン。カシミール(Kashmir)にとって不可欠な手工芸品産業を支えており、数千人の雇用を生み出している。(c)AFP