【6月9日 AFP】香港で9日、中国本土に容疑者の身柄引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模なデモが起きてから1年を迎えた。多くの市民の逮捕、新型コロナウイルスを理由とする集会の禁止、そして政権転覆を禁じる「国家安全法」の導入──今、香港ではあらゆる抗議活動の再開が阻止されている形となっている。

 2019年6月9日のデモは最大で100万人の規模に達し、それから7か月、激しい衝突を含む大規模な抗議行動が続いた。

 香港政府の強硬姿勢が強まると、警察とデモ隊の衝突は日常化。香港の治安への評判は地に落ち、多くの市民が中国政府のルールに反旗を翻すようになった。

 大規模デモから1年を迎えるに当たり、民主派活動家らはオンラインでメッセージをやりとりしながら夜に突発的な集会の開催を呼び掛けているが、開催場所は1時間前まで非公開となっている。

 中国政府寄りだとして人気のない香港政府トップ、林鄭月娥(キャリー・ラム、Carrie Lam)行政長官は9日の記者会見で、1年前のデモについて記者から質問され、「香港はあのような混乱に直面する余裕はない」と答えた。

 また、全当事者が「経験から学ぶ」必要があると述べ、香港市民が自由と自治を維持したいのであれば「分別があり、思慮深い中国の国民であることを示す必要がある」と発言した。

 「逃亡犯条例」改正案は事実上撤回されたものの、それ以外の抗議運動の大きな要求である普通選挙の実施や警察の暴力に対する調査の実現は、香港政府や中国政府から拒絶されている。

 それどころか、中国政府は香港への「国家安全法」導入を決定。香港の立法会(議会)を迂回(うかい)し、国家転覆や分離活動、テロリズム、外国勢力の介入を阻止する措置を策定するとしている。

 中国政府は国家安全法について、「少数の人々」のみを標的とし、香港経済への信頼を取り戻すためのものだと主張している。

 昨年はおよそ9000人が逮捕され、1700人以上が起訴されているが、新型コロナウイルスの影響が出てくる今年1月ごろには抗議運動の勢いはすでに弱まっていた。

 ウイルスの流行により抗議活動は事実上すべて違法とされ、地域レベルでの感染拡大がほぼ収束した後も、8人以上の集会は禁止となった。

 しかし、国家安全法の導入が発表されて以降、再び抗議活動が活発化する動きも見られている。今月4日に開かれた天安門(Tiananmen)事件の31年周年追悼集会には、当局の禁止令に反して数万人が参加している。(c)AFP/Su Xinqi and Jerome Taylor