【6月13日 東方新報】32歳、修士号を持ち、英語とフランス語が堪能な有名ハイテク企業勤務、アフリカ駐在経験ありのベビーシッター。中国の「保母(Baomu)」と呼ばれるベビーシッター・家政業界に、こんな高学歴人材が最近増えているという。料理、洗濯、掃除、子守など家庭の雑務を引き受ける「家政業」はかつて、無学な農村出稼ぎ女性がもっぱら行う、純粋な肉体労働として、一段低い職業とみなされていたが、最近では子どもの英語教育が行え、IT端末を使いこなすなどの知識と能力が求められる高収入で魅力的な職業として、高学歴の若者にも注目されはじめている。

 北京日報(Beijing Daily)が最近、修士号を持つ保母・劉双(Liu Shuang)さんをクローズアップして紹介したことが、ネットで話題となった。彼女は西安外語大学(Xi'an International Studies University)修士を卒業。大手通信企業に就職し、アフリカ駐在勤務となった。年収30万元(約458万5200円)の安定した仕事だったが、2016年に結婚、出産のために退職して帰国。出産後いったん、就学前児童向けの教育センターに就職したが、将来の発展性を考えて保母に転職することにした。 劉さん自身、出産直後に若い女性を保母に雇ったことがあり、その時の交流経験から、この仕事に将来性を見いだしていたという。

 劉さんは仕事を料理や掃除の仕事をせず、子どもの教育に重点を置くことを条件に1時間100元(約1528円)という相場の倍以上の報酬を要求したが、それでも引く手あまたで、月曜日から金曜日の朝9時から夕方5時の労働時間で、月収2万元(約30万5680円)以上を軽く稼ぐようになったという。

 劉さんのような例は最近急増しており、大学自体に家政学部を開設ところも増えている。 天津師範大学、湖南女子学院、吉林農業大学など多くの大学ですでに家政関連の学部が開設されている。

 こうした傾向の背景には二つの大きな変化がある。一つは人々の職業観念の変化。次に家政業界自身に起きている変化だ。

 かつての家政サービス従事者は40~50歳以下、教育水準も高くない農村出身の中年女性が多く、若者は工場での仕事を望み、保母にはなりたがらなかった。そういう仕事は、拘束時間が長く、人にこき使われ、体面も悪いと思われていたのだ。だが、近年、「月嫂(Yuesao)」と呼ばれる妊婦に対するケアサービス業、庭師など、従来見下されていた職業が徐々に特殊技能が必要な高収入の職業であると見なおされはじめた。

 全国58都市で発表された家政市場就業消費報告書によると、今年4月の家政業雇用募集は15.28%上昇しており、コロナ感染でマイナス影響をかぶるどころかむしろ伸びている。家政業の平均月収も6031元(約9万2177円)で、中でも月嫂の平均月収は9699元(約14万8239円)で、家政業職のトップクラスだった。この最大の要因は消費者側がより高学歴で信用のおける人材を求めるようになってきたからだ。保母を必要としている1990年代生まれの消費者の74.5%が、家政業従事者を雇う場合、専門の系統的な研修を受け、専業証書などを保持しているかどうかを重視するという。

 特に中国で徐々に増えている中高収入層、富裕層の保母に対する要求は、子どもに英語や科学知識や教養、礼儀などを教え、情操教育もできる「メアリー・ポピンズ(Mary Poppins)」のようなナニーの役割を求めるようになってきたという。またハイエンド家政サービス業は、IT家電や情報サービス端末を使いこなし、スマートに雇い主や家庭運営のサポートを行える執事風の頭脳派サービスを求める顧客も増えている。「使用人」「子守」といった職業蔑視的なニュアンスも消え、家政業従事者の権利と義務の明確な標準化や、経営管理記録の透明化など健全な信用メカニズムの構築も必要になってきた。

 こうした観念の変化とともに、家政サービス消費は急増しており、国家発展委員会のデータによれば、2018年、中国の家政サービス業市場規模は5762億元(約8兆8066億円)で前年比27.9%増。将来的には1兆元(約15兆円2840億円)市場に成長すると見込まれ、内需拡大、消費振興の重要なパワーとみなされている。

 業界では、家政サービスのハイエンドブランドチェーン企業なども登場。四川省(Sichuan)眉山市(Meishan)で2017年に登場した「蘇小妹」は、年収10万元(約152万8400円)プラスボーナスを約束してハイレベル人材を募集し、ハイエンドユーザー向けの一定レベル以上の家政ノウハウと英語の基礎を強化した「プロフェッショナル家政婦」を育成、派遣して成功を収めている。大型のIT企業などもこの業界に参入しはじめ、こうしたブランド強化に寄与している。

 新型コロナウイルス感染症の影響で大学新卒生の就職難が予想されている中、家政業はねらい目の業界といえそうだ。 (c)東方新報/AFPBB News