【6月6日 AFP】仏ブルブール(Bourbourg)の老人ホームで、ナタリー・スキぺニアク(Nathalie Szczepaniak)さんは、夫のジョゼフさんの手を「なでる」。新型コロナウイルス対策によるロックダウン(都市封鎖)で、数週間ぶりとなる面会がかなった。

 しかし、今回の面会は、いつも通りのものではなかった。

 夫婦はジョゼフさんが滞在する老人ホームに設けられた、「泡」のような外観の抗ウイルス・テントの中で再会した。透明なプラスチック製のシートで仕切られているため、感染リスクを心配せずに対面し、ある程度物理的に触れ合うことができる。

 ナタリーさんは白くてふわふわとした毛並みの犬、べルコを抱え、シート越しにべルコの足をジョゼフさんの手に乗せた。ジョゼフさんはパーキンソン病を患っている。

■「ほら見てください、びっくりです!」

 新型コロナウイルスに対しては、高齢者が最も脆弱(ぜいじゃく)であることが判明している。フランスでは感染拡大を抑えるため、ロックダウンを開始した3月、老人ホームにも厳格な面会禁止策を取った。

 当局の発表では、新型コロナウイルス感染症による高齢者施設での死者数は1万350人。国全体の死者数2万9065人の3分の1を超えている。

 しかし、老人ホームの入居者や家族にとって、対面の機会がない日々は耐え難いものだった。

「彼を2か月間訪ねることができませんでした……今回予約をしたところ、ほら見てください、びっくりです!」。ナタリーさんは到着するなり、テントを指さして言った。

「私たちはお互いに触れることができます。(プラスチック製のシートを通じて)ぬくもりを感じることができます……これはとても、とても、とてもすてきなことです」とナタリーさんは笑顔いっぱいに語った。

「彼はシートの存在にも気付きませんでした。彼の顔には笑みが浮かんでいました。久しぶりに見た笑顔でした」とナタリーさんはうれしそうだ。

 ナタリーさんが去った後、「泡」の中は消毒され、次の訪問者を迎えるようになっている。(c)AFP/Elia VAISSIERE