【6月3日 AFP】米国で黒人男性の死亡事件に対する抗議活動が拡大する中、デモを取材する記者が暴力を振るわれる事案が相次いでおり、メディアの間で懸念が高まっている。また、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領が暴力を助長する空気をつくっていると批判する声も一部から上がっている。

 ここ1週間、複数のメディア監視機関は取材班に対する警官らによる暴力を多数確認しており、記者らは銃で撃たれ、殴られ、蹴られ、ペッパースプレーを噴射され、逮捕されるなどし、多くの事案はカメラで撮影もされていた。中にはオーストラリアのテレビクルーが、ホワイトハウス(White House)周辺にいた警官に地面に押し倒される様子を捉えた映像もある。

 報道の自由を監視する計18の団体は警察当局宛ての公開書簡で、「現場で取材する記者を標的とした意図的で激しい暴力行為」をやめるよう呼び掛けた。

 監視機関の集計によると、抗議デモの現場で発生した報道の自由に反する事案は192件。うち131件で記者らに対する暴力があり、さらにそのうち108件は警察による暴力だった。また記者らの逮捕は31件、ゴム弾の使用は46件、機材の損傷は30件、催涙ガスの使用は30件、ペッパースプレーの使用は17件あったという。

 メディアを擁護する側からは、トランプ氏によるメディアたたきが取材陣への暴力の糸口となっていると指摘する声も上がっている。

 ワシントン・ポスト(Washington Post)の元編集長で、トランプ政権とメディアに関する研究論文を今年執筆したアリゾナ州立大学(Arizona State University)のレン・ダウニー(Len Downie)教授は、トランプ氏のメディア批判について「明らかに報道陣に対する攻撃が発生しやすい空気をつくり出している」と述べ、「米国は大統領を信じる人々と、報道を信じる人々とに分断している」と指摘した。

 またプロフェッショナルジャーナリスト協会(Society of Professional Journalists)のパトリシア・ギャラガー・ニューベリー(Patricia Gallagher Newberry)会長は、トランプ氏のメディア批判が「有害な影響」を及ぼしてきたと述べ、「これは米国内で起こってはならないことだ。報道の自由は憲法で保障されており、警官や抗議デモの参加者が記者を攻撃することは違法で、また衝撃的で極めて憂慮すべきものだ」と語った。

 現在、多くのメディア企業が新型コロナウイルス感染拡大による経済的な打撃に見舞われており、読者や視聴者に重要な情報を届け続けることが困難な状況だ。

 ジャーナリストの労働組合「ニューズギルド(NewsGuild)」のジョン・シュレイス(Jon Schleuss)代表は、「記者やフォトグラファーはリスクを理解し、特別扱いされることは期待していない。しかし、取材中の記者を攻撃することは全ての米国民に対する違憲行為だ」と訴えた。(c)AFP/Rob Lever / With Thomas Urbain in New York