【6月3日 People’s Daily】中国広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)博白県(Bobai)長江村(Changjiang)に住む劉入源(Liu Ruyuan)さんは早朝目が覚めると、近くの道根村(Daogen)へと向かった。「村の農家がハトの卵を出荷するのを、見に行かないといけないんです」。劉さんは全国人民代表大会(全人代、国会に相当)代表の一人。各地の農村を奔走し、行政が救済対象に指定している貧困農家を支援している。

 劉さんは1980年代生まれで、不慮の事故で右手を失っている。年齢はまだ若いが、ヤギの養殖指導を通じて、多くの農家を貧困から救い出している。「私はいつも自問自答しています。職務を遂行し、責任を全うしているかと。そうでなければ、村人たちに申し訳が立たない」

 劉さんが道根村と関わるようになったのは昨年6月。表情の沈んでいた農民が劉さんを訪れた。「私たちはハトを養殖していますが、あまり利益がありません。私たちにヤギの養殖を教えてもらえませんか?」

 劉さんが手がけるヤギの養殖は評判で、広西チワン族自治区の桂林市(Guilin)、柳州市(Liuzhou)、欽州市(Qinzhou)、玉林市(Yulin)など約630戸の農家が劉さんの指導でヤギの養殖を始め、1600人以上の農民が貧困から脱出している。それでも劉さんは道根村の農民に「一緒にヤギを養殖しましょう」とは言わず、まずは実地調査を行った。

 ハトの養殖小屋を見学し、農家を訪ね、卸売市場で相場を調べた劉さんは「ハトの養殖コストは安く、卵を売ると利益がある」という結論に達し、村民たちにハトの卵を売ることを提案した。

「ビジネスは機械的に当てはめればいいものではない。一からヤギの養殖を始めるより、今のハトの養殖の中から解決策を探した方がいいと考えたんです」と劉さんは話す。

 農民たちは卵の販売に力を入れるようになったが、今年に入り、ハトの卵の輸送コストが高いということを劉さんは伝え聞いた。近隣の省へ出荷するのに、卵1個に1元(約15円)のコストがかかるという。「何とか方法を見つけて、また農民たちを手助けしなければ」

 劉さんは長年、農産品の流通方式について研究しており、昨年の全国人民代表大会では、生産・輸送・消費の過程で途切れることなく低温に保つ「コールドチェーン物流方式」について提案もしている。道根村でもその経験を生かし、運輸会社と農家の間を取り持ち、卵を運ぶためにトラックをチャーターした。その結果、卵500個の輸送費用は100元(約1500円)に下がり、低コストを実現した。

 今では道根村のハトの卵は引っ張りだこに。貧困家庭のリストに入っている7戸の農家は養殖場を作り、毎月の平均収入は3000元(約4万5000円)を超えるようになった。村で最大の養殖場では2万羽のハトを育て、年間で60万個の卵を出荷している。

 博白県のどこかの田んぼのあぜ道で、いつも劉さんの姿が見える。農村を歩き回り、村人と世間話をしながら、村の改善点を探す。そしてまた次の村へ。「一方的に農民に仕事を押しつけても貧困解消は実現しない」「農村と企業の提携が村民に富をもたらす」。劉さんのそうした提案は、村人とのふれあいから生まれてきたものだ。

「人民の代表は人民のためにある」と強調する劉さん。口で言うのは簡単だが実行するのは難しく、それを継続するのはさらに困難と労苦を伴う。「私は全人代代表としてふさわしい仕事をしているか?郷里の人々の暮らしを手助けできているか?いつも自問自答を続けています」。劉さんはそう繰り返した。(c)People's Daily/AFPBB News