■「苦しい戦い」

 戦狼外交の主要メンバーである外務省の趙立堅(Zhao Lijian)報道官は、米軍が新型ウイルスを中国に持ち込んだ可能性があるという驚くべき陰謀説を展開した。

 一方、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領は、新型ウイルスを「中国ウイルス」と呼び、武漢の研究所から流出した可能性があると主張し、中国の国家主義者たちの感情を逆なでしている。

 北京で活動するフリーランスの政治評論家フア・ポー(Hua Po)氏はAFPに対し、「トランプ氏の就任後、中国は米国の弾圧的な外交政策を回避することができなくなり、もはや控え目な態度を維持できなくなった」と指摘した。

 中国政府の怒りの標的は、米国だけではない。

 オーストラリア政府が新型ウイルスの発生源と拡大に関する独立調査を求めたことから、駐豪中国大使は報復として豪州製品の不買運動をすると警告した。

 また、新型ウイルスをめぐる欧州の対応を批判するメッセージを在仏中国大使館の公式サイトに掲載した問題をめぐりフランス外務省は4月、中国大使を呼んで正式に抗議した。

 さらに欧州連合(EU)のジョセップ・ボレル(Josep Borrell)外交安全保障上級代表(外相)は5月25日、EU加盟27か国はアジアの巨人に対して「より強固な」戦略を取らなければならないと述べた。

 英ロンドン大学(University of London)東洋アフリカ研究学院(SOAS)で中国研究院の代表を務めるスティーブ・ツァン(Steve Tsang)教授は、特に新型ウイルス危機によって中国当局の信頼性は揺らいでいるが、中国政府の外交政策は中国共産党の利益が第一であり、その権力の維持が優先されると説明する。

「攻撃的なプロパガンダと『戦狼外交』は多くの西洋諸国を敵に回したが、中国の政策というはるかに重要な目的のために支払われる代償にすぎない」とツァン氏は述べた。

 米ペンシルベニア州にあるバックネル大学(Bucknell University)で政治学を教えるジクン・シュ(Zhiqun Zhu)教授は、中国は「国際的なイメージを改善するための苦しい戦いに直面する」と指摘する。

「中国のソフトパワーは弱く、その話は公式プロパガンダにすぎないとされ、軽くあしらわれている。このため中国が広報戦に勝てるとは思わない」 (c)AFP