【5月31日 AFP】カナダ・バンクーバー(Vancouver)在住のトリクシー・リン(Trixie Ling)さんは5月の初め、通りすがりの見知らぬ男性からあざけりの言葉を浴びせられた時の嫌悪感と怒りを今も忘れられない。男性は人種差別的・性的な暴言を放った後、リンさんの顔に向かって唾を吐いたのだ。

 現場近くでAFPのインタビューに応じたリンさんは、「ショックと嫌悪感、悲しみが、ない混ぜになった気持ちだった」「でも、こういう目に遭ったのは私だけではない」と話す。

 実際、リンさん一人の身に起きたことではない。唾吐きから暴力行為、暴言による攻撃、中国系文化施設での器物損壊に至るまで、カナダ第3の都市に住む中国系住民たちは不安を募らせ、歓迎されていないとの気持ちを強めている。

 2016年の最新の人口統計によると、バンクーバーでは中国系住民が26%を占める。だが、AFPが入手した調査会社リサーチ・コウ(Research Co.)の新たな調査結果で、この問題が非常に根深いものであることが明らかになった。

 成人1600人を対象に行ったこの世論調査によると、ブリティッシュコロンビア(British Columbia)州のアジア系住民(うち70%が中国系)の4人に1人が、3月以降に家族の誰かが「人種差別的な中傷や侮辱」の標的になったことがあると回答した。

 バンクーバーの警察当局もこの2か月間でアジア系を標的にした29件の事件を捜査している。警察トップによると、その数は昨年同期比7倍以上だという。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の最中、やはり人種差別を経験したバンクーバー市民の一人は、自分たちの経験を匿名で他の人々と共有できるオンライン報告サイトの立ち上げに貢献した。ファーストネームだけの公表を条件に取材に応じたエレンさんは、そのデータベースの活動が人種差別との闘いへとつながるだろうと話す。

「極めてわいせつで不適切で軽蔑的な発言やジェスチャーをかなりたくさん経験した。それらは主にアジア人の特徴に触れたものだ」「自分の身に起こり得ることを想像すると、強いストレスや恐怖を感じるし、気持ちが動揺する」とエレンさんは話す。

■ヘイトの波及

 バンクーバーで125年の歴史を誇るチャイナタウンでは先週、ゲートに設置された獅子の石像に新型コロナウイルスを意味する「Covid」や「China(中国)」の文字が落書きされた。付近にある中国系文化施設も最近、窓が割られる被害を受けた。チャイナタウンでは現在、監視カメラを搭載した警察車両が巡回している。

 市内の教会の牧師で、5月半ばにインターネット上で反人種差別集会を共同企画したダニエル・ルイ(Daniel Louie)氏は、中国政府への批判と中国人についての固定観念は区別すべきだと話す。

 憎悪をあおる行為の悪影響は、中国系に間違われることや、中国系と交流があることを通じて日系、韓国系、ベトナム系住民にも波及している。

 人種差別と闘う人々の一部は、こうした出来事は単なる一時的な傾向ではなく、社会に古くからある偏見がパンデミックによって表面化しただけだと指摘する。

 リンさんは侮辱された時のことを思い出しながら、それがきっかけで声を上げようと心に火が付いたと語った。

「こういうことが起きた時には、恥じたり沈黙したりするのではなく行動を起こすことが私たち全員にとって重要だ。多くの人々が声を上げれば、人種差別と闘うことができる」 (c)AFP/David BALL