【6月1日 Xinhua News】中国広東省(Guangdong)で進められている南宋時代の沈没船「南海1号」の水中考古発掘プロジェクトは今年5月、「2019年中国十大考古発見」に選定された。同船保護発掘チームのリーダーを務める広東省文物考古研究所の崔勇(Cui Yong)副所長と同僚らにとって、今回の入選は同船の発見から三十数年後に訪れた新たな出発点となった。

「南海1号」は1987年に初めて存在が確認されたが、考古発掘隊が船体の全容を目にしたのは2002年になってからだった。当時発掘隊のメンバーだった崔氏は、海底の泥を巻き上げないよう水中に浮かんだまま船の前後を行き来し、船体の全容を撮影した。当時撮影された20分間前後の映像は現在、「南海1号」が海底に眠る様子を捉えた唯一の映像資料となっている。

 発見当時、「南海1号」の船体は海底の泥に深く埋もれていた。沈没海域の条件も複雑だったこともあり、考古専門家グループは船体と船内の遺物を守るため、検討と論証を重ねた結果、船全体を一気に引き揚げることを決めた。

 2007年12月、9カ月にわたった海上作業を終えた「南海1号」は、ケーソン(浮き箱)で泥に埋まった状態のまま引き揚げられた。船体はそのまま同省陽江市(Yangjiang)海陵島の「広東海のシルクロード博物館」に建てられた専用保存施設「水晶宮」へ運ばれた。

 発掘調査は2009年と2011年の試掘を経て、13年に本格的に開始された。残存する長さ約22・1メートル、幅約9・35メートルの古船は徐々に本来の姿を現し始めた。

 19年には船倉の発掘が完了。出土品は大量の磁器と鉄器のほか、金、銀、銅、鉛、錫(すず)などの金属器や竹・木製漆器、ガラス器、人骨、鉱石標本、動植物残骸など18万点を超えた。

 発掘作業でさまざまな情報が蓄積されていくにつれ、船が沈没した800年以上前の状況も徐々に明らかになった。考古学者は、船内で見つかった貨幣や陶磁器の刻印、墨書に基づき、同船が福建省(Fujian)泉州港を出発し、東南アジアさらにはアラブ地域に向かっていたと推測した。

 崔氏は「船内で見つかった数万枚の硬貨を年代順にならべたところ、最も新しいのが南宋淳熙年間(1174~1189年)のものだと分かった。また、ある陶磁器に「癸卯(きぼう)」の墨書があったことから、船の出発時期は少なくとも1183年以降だと推測できる」と述べた。

 面白い発見もあった。考古学者は出土品からガチョウの籠と6羽分のガチョウ骨、豚や羊、鶏などの残骸を発見。当時の船員は船上でも肉が食べられるよう、船内で家禽(かきん)や家畜を飼っていたと考えられる。

 保護発掘プロジェクトで保護チームのリーダーを務める李乃勝(Li Naisheng)氏は同船について、800年余りにわたり海水の浸食を受けたのに加え、鉄器の凝結物の腐食による汚染も深刻で、船体構造がもろくなっていると説明。「南海1号」はかなり高齢の老人と同じ状態であり、考古スタッフによる入念な「介護」が必要だと述べた。

「沈没船の保護は考古研究者と文化財保護従事者が1~2世代にわたり共同で努力することで初めて可能になる」とも指摘。現在は博士や修士からなる6人の保護チームが現場に常駐しているが、彼らは新材料や新技法の研究を行うほか、文化財保護修復チームの育成にも力を入れていると説明した。

 李氏は「文化財保護は非常に難しい仕事だが、最大限の努力を尽くしたい。科学技術を活用し、科学的な分析と計画を行えば、きっと上手くいく」と語った。

 発掘作業は一般にも公開されており、水晶宮には「南海1号」を一目見ようと多くの観光客が訪れている。彼らもまた、見学通路のガラス越しに800年前の歴史の記憶に思いをはせている。(c)Xinhua News/AFPBB News