【6月13日 AFP】ベトナムの首都ハノイの薄暗い道で、バイクタクシー運転手ファム・コック・ベト(Pham Quoc Viet)さん(33)は、膝から血を流している仲間の手当てをする。無秩序に車がひしめき合うハノイでは、こうした事故は珍しくない。

 ベトさんは日中、東南アジア配車サービス大手グラブ(Grab)の仕事で、並木道や曲がりくねった路地を走り回っている。一方、午後9時半から午前1時半までは、非公式ではあるものの、ハンドルに赤いライトを付けたバイクで通りをパトロールし、救護活動に当たっている。

 ベトさんは2017年にハノイに引っ越してきた。「初めてハノイに働きに来た時、事故でけがをした人を助けるために何ができるのだろうかと考えた」と語る。

 その前年、ベトさんはバイクの衝突事故に巻き込まれ、道端に投げ出された。通行人たちはちらっと見るだけで、怖がって誰も近づいてこなかったという。ベトさんはAFPに対し、「人が脇を通り過ぎていった時の絶望的な気持ちを覚えている…他の人が同じような状況に陥った時に見捨てられたと感じてほしくない」と話した。

 ベトさんは一人で救護活動を始めたが、今ではベトさんの元にハノイで働く人を中心に50人近くのボランティアが集まっている。

 ベトさんたちのチームは現在、毎月約100人の救護に当たっている。メンバーはそれぞれ包帯などの装備に毎日最大2ドル(約220円)を支払っているが、これは彼らの収入の約10分の1に相当するという。

 チームは誰にでも平等に救護活動を行っている。メンバーの中には、バイクタクシーの運転手ではない負傷者は気に掛けなくてもいいのではないかという人もいるという。そんな時、ベトさんはこう伝えている。「その人が自分の親類や友人だと想像してみたらどうだろうか。それでも同じことを言えるのだろうか」 (c)AFP/Quy Le BUI